2023年に放送されたドラマ『事件』。
大岡昇平が1961年から『若草物語』の題で新聞連載し、1977年に刊行した同名小説を原作とするWOWOWの連続ドラマ。1978年には日本推理作家協会賞を受賞した作品で、これまでにも映画やドラマとして映像化されてきた。
なんでしょう、全体的に地味なドラマですけど、裁判ドラマの醍醐味はちゃんとあります。
だけど物足りない部分もたくさんある。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:事件
公開年:2023年
製作国:日本
話数:全4話
監督:水田成英
脚本:三田俊之、保木本真也
原作:大岡昇平『事件』
出演:椎名桔平、北香那、望月歩、秋田汐梨、高橋侃、ふせえり、貴島明日香、中村シユン、仁村紗和、入山法子、堀部圭亮、いしのようこ、永島敏行、髙嶋政宏
ジャンル:法廷/サスペンス/ドラマ
あらすじ

元裁判官の弁護士・菊地大三郎は、大学時代からの親友である高橋茂樹の頼みを受け、19歳の大学生・上田宏の弁護を担当する。宏は幼馴染で交際相手だった坂井佳江の姉・葉津子を殺害し、遺体を資材置き場に遺棄したとして逮捕されていた。
裁判が始まり、事件関係者たちの証言が重ねられていく中で、葉津子を取り巻く複雑な人間関係や、それぞれが抱えていた事情が明らかになっていく。宏は本当に葉津子を殺したのか。菊地は法廷で証言の矛盾を一つずつ追いながら、事件の裏に隠された真相へ迫っていく。
殺人罪を無罪へ。じわじわ黒を白にしていく裁判の面白さ
『事件』のゴールは明確で、殺人罪に問われた上田宏を無罪にする。
いわゆる黒を白にする面白いテーマ。
裁判は最初から「この人は犯人ではありません」と一発で証明できるわけではない。どう考えても黒に見える状況から、小さな証言や事実を一つずつ積み上げじわじわと白へ近づけていく。
この過程が本作で一番興味深かった。
特に印象に残ったのがナイフのくだり。
宏は事件前にナイフを購入し、店頭で切れ味まで確認していた。これだけ聞けば、「人を殺すために凶器を選んでいた」と考えることもできる。
ところが購入したのは単なるナイフではなく、ハサミなども付いた多機能なもの。しかも店員の証言から、宏は刃だけではなくハサミの切れ味まで試していたことが分かる。
つまり殺人のために凶器を吟味していたのではなく、生活用品として各機能を確かめていただけではないのか?
凶器を購入したという一つの事実は変わっていない。
だがその事実が持つ意味を証言によって変えていく。
この緻密な積み重ねこそ裁判の面白さなのだろう。
ただし、『スリーパーズ』のように弁護士同士の心理戦でドキドキさせる法廷サスペンスとはかなり違う。
菊地大三郎もとんでもなく頭の切れる天才弁護士という感じではなく、無個性に近い。
だから題材だけを見れば「殺人罪を無罪にする」というものすごい話なのに、ドラマそのものは意外なほどゆっくり進む。
裁判を最初から最後まで疑似体験するロールプレイングドラマ
本作は法廷サスペンスであると同時に、裁判そのものを疑似体験するような作りになっていること。
実際の裁判に参加した経験はない人間にも、「裁判ってこうやって進むのか」と分かるように、一つずつ丁寧に見せてくれる。
例えば証人として法廷に出ることで約4,000円が支給されるという話が出てくる。
へえ、証言するとお金をもらえるんだ。
とはいえ他人の人生を左右するかもしれない証言をして、法廷では弁護士から厳しく質問されることもある。それを考えるとなかなかしんどい役目でもある。
さらに面白いのが裁判員の存在。
弁護士、検察官、裁判官は法律の専門家だが、裁判員は一般市民から選ばれる。つまり我々視聴者と同じような立場である。
専門知識ではなく、自分の常識や人生経験から「この証言を信用していいのか」「本当にこの人が殺したのか」と考える。
これはどこかネットのレビュアーにも似ているように見えた。
専門家ではない人間が、目の前に提示された材料を見て自分なりに判断する。
専門家だけで進む法廷へ一般市民の視点を入れることで、同じ証言でも立場によって受け取り方が違うことが見えてくる。
だから本作は、法廷での派手な攻防を楽しむというより、視聴者自身も裁判員席へ座らされて一緒に事件について考えていく感覚が強い。まさに裁判のロールプレイングだ。
地味ではあるけれどこの部分はかなり勉強にもなった。
裁判では無罪になっても、ネットから「殺人犯」は消えない
最終的に明らかになるのは、佳江自身がナイフへ飛び込んだことで命を落としており、宏が佳江を殺したわけではなかったという事実だ。
ただここで妙に現実的なのがネットの存在。
ネット上にはそれまでに報じられた「上田宏が殺した」という情報が残っている。
裁判で無罪を勝ち取ることはできても、一度世間に広まった「殺人犯」というイメージまで消せるわけではなく、第一報は大きく広がる。
でもその後に無罪になったという情報を、最初の記事を読んだ全員が追いかけてくれるわけではない。
裁判では黒を白にできても、世間に残った黒までは白にできない。
刑務所を出た宏がこの先本当に普通に幸せに暮らせるのか?そこには結構な皮肉を感じた。
一方で残念だったのが、菊地大三郎のキャラクター。
椎名桔平演じる菊地には過去の出来事がありそれを理由にネットでも炎上するが、この要素が現在の事件にほとんど生きてこない。
おそらく「人間は間違える。間違えたなら修正すればいい」という本作のテーマを菊地自身にも背負わせたかったのだと思うが、ドラマを盛り上げるスパイスとしては弱い。
現在進行中の事件に集中したいのに、途中で菊地の悪評や炎上が入ってくるので、むしろ邪魔に感じてしまった。
そもそも菊地自身も優秀で真面目な弁護士という以上の強烈な個性がないのでエンタメとして見ると少し中途半端。
最後のシーンで椎名桔平が言うのは、「もしも弁護士が自分じゃなかったら」、「もしろ裁判官が違う人だったら」みたいなセリフがあって、「裁判そのものが事件なんだ」というシーンで幕を閉じる。
わかるけど、そんな決め顔でドラマ終わられてもねぇ・・・ちょっとこっ恥ずかしくなる。
そして最後に、このドラマから僕が学んだ最大の教訓を残しておきたい。
まず、人前でナイフを出すのはやめましょう。
メンヘラ女が突然ナイフに飛び込んでくる可能性があるからだ。
ナイフは人前で出さない。これ大事。





