2008年に公開された映画『ブラックサイト』。
『オーロラの彼方へ』『真実の行方』のグレゴリー・ホブリットが監督を務め、ダイアン・レインがFBIサイバー犯罪捜査官ジェニファーを演じる。
「他人の不幸を見たい」というネットユーザーの好奇心を逆手に取ったアイディアはいいけど、それだけでした。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:ブラックサイト
原題:Untraceable
公開年:2008年
製作国:アメリカ
上映時間:101分
監督:グレゴリー・ホブリット
脚本:ロバート・フィヴォレント、マーク・R・ブリンカー、アリソン・バーネット
出演:ダイアン・レイン、ビリー・バーク、コリン・ハンクス、ジョセフ・クロス、メアリー・ベス・ハート
ジャンル:クライム/サスペンス/スリラー
あらすじ

オレゴン州ポートランド。FBIのサイバー犯罪部門に勤務するジェニファー・マーシュは、相棒のグリフィンとともにインターネット上の犯罪を捜査していた。
ある夜、「killwithme.com」という不審なサイトを発見する。そこでは捕らえられた被害者の姿がライブ配信され、アクセス数が増えれば増えるほど死に至るスピードが速くなるという異常な仕掛けが施されていた。
FBIはサイトを停止させ、犯人の居場所を突き止めようとするものの、高度な技術によって追跡を阻まれる。その間にも好奇心からサイトへアクセスする人間は増え続け、被害は拡大。やがて犯人の標的はジェニファーたち捜査関係者にも向けられていく。
アイディアだけ。
唯一と言っていいほどまともだったのは、「アクセスする人間が増えれば増えるほど、被害者が早く死ぬ」という殺人サイトのアイデアだった。
これは2008年という公開年を考えても興味深くて、誰かが残酷な目に遭っていると分かっているのに、好奇心からクリックしてしまう。
直接手を下しているのは犯人でも、その殺人を加速させているのは画面の向こう側にいる大勢の人間たち。今のSNSにも通じる群衆心理をかなり早い段階で扱っている。
ただ、残念ながら本作の面白さはほとんどここで終わってしまった。
せっかく強烈な設定を用意したのに、そこから物語が全くといっていいほど広がらない。後半になるほど普通の犯罪捜査と追跡劇になっていき、最初に感じた新鮮さがどんどん薄れていく。
しかも全体的に質感が妙に古臭い。2008年の映画なのに、もっと昔のアメリカのテレビドラマを観ているようなチープさがある。映像だけではなく、芝居も台詞も演出もどこか垢抜けない。
同僚のグリフィンが捕まり、硫酸を使った大掛かりな殺人装置にかけられる場面もそうだった。犯人がわざわざ面倒な仕掛けを用意し、さらに警察側が「水と硫酸が混じったら全身が焼けただれる!」というところまで懇切丁寧に説明してくれる。
結局、「人が見れば見るほど死ぬ」というワンアイデアだけで101分を走ろうとして、それ以上の面白さを作れなかったように思う。
びっくりするくらい魅力がない主人公
サスペンスでは、何を見せるかと同じくらい「何を見せないか」が重要だと思う。
その点で本作は、見たいものと完全に逆だった。
犯人の顔を比較的早い段階で見せてしまうし、犯人が何をしているのかも見せる。男性刑事へ電話をかける際には女性の声を使って騙していることまで、こちらは分かっている。
手の内をどんどん見せてしまうから、未知の存在に追われている恐怖がない。
ここで思い出したのがスティーヴン・スピルバーグの『激突!』だった。あの映画では、主人公を執拗に追い回すトラック運転手の顔を全く見せない。何者なのか分からないからこそ、観客の頭の中で勝手に恐怖が膨らんでいくのだ。
この作品にはそれが全くない。
犯人が分かる。顔も分かる。手口も分かる。背景も見えてくる。
見せれば見せるほど犯人が怖くなくなっていくのだ。
しかも犯人だけではなく、主人公のジェニファーにも最後まで魅力を感じられなかった。
「私、得意なことは多いけど、人に死なれるのはダメなの」
何そのダサい台詞。
ジェニファーという人物ならではの強烈な個性があるわけでもなく、彼女だからこそ事件を解決できるという魅力が際立っているわけでもない。
だから途中から、「なんで俺はこの人を主人公に据えた物語を101分も観なきゃいけないんだ?」と思ってしまった。
主人公が女性だからという話ではない。単純に、このキャラクターを物語の中心に置く必然性が見えてこなかった。
何もない。
そして終盤もひどかった。
前半では「アクセスする群衆も殺人に加担している」という面白いテーマを提示していたはずなのに、最後はどんどん普通のアメリカ製犯罪スリラーになっていく。
犯人との直接対決になり、結局は主人公が犯人を倒す。
あれだけインターネットと群衆心理を使った特殊な犯罪を描いていたのに、最後の最後で急に見慣れた泥臭い格闘に戻ってしまう。
犯人の最期にも「あっけなさ」しか感じなかったし、それまで積み上げてきたテーマがきれいに着地したとも思えない。
結局、この映画は何を見せたかったのだろう?
ネットで残酷な映像を覗き見る人間の愚かさなのか?
匿名社会の怖さなのか?
FBI捜査官とサイバー犯罪者の頭脳戦なのか。それとも単純な猟奇殺人スリラーなのか?
どれも少しずつ触っているけれど、どれも最後まで突き抜けない。
アイデアはいい。でも、本当にそのアイデアしかない。
本作は、その一言でほとんど説明できてしまう映画だった。





