2023年に公開された映画『災 劇場版』。
本作は、WOWOWの連続ドラマ『災』を時系列や展開から再構成し、約2時間の映画として編集した2026年公開のサイコサスペンスである。
関友太郎と平瀬謙太朗が監督・脚本を手がけ、香川照之が事件の周辺に現れる複数の人物を演じる。
なるほど、こういう映画もあるんだ。ちょっと驚きでした。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:災 劇場版
原題:―
公開年:2026年
製作国:日本
上映時間:128分
監督:関友太郎、平瀬謙太朗
脚本:関友太郎、平瀬謙太朗
原作:なし(WOWOW連続ドラマ『災』を再構成)
出演:香川照之、中村アン、竹原ピストル、宮近海斗、中島セナ、松田龍平、内田慈、藤原季節、じろう、坂井真紀、安達祐実、井之脇海
ジャンル:サスペンス/ミステリー/サイコスリラー
あらすじ

女子高生やトラック運転手、ショッピングモールの清掃員、理容師、旅館の支配人、主婦など、互いに接点のない人々の平凡な日常に、ある男が突然現れる。
男は場所ごとに姿や口調、顔つき、性格まで変えながら人々の生活へ入り込み、不可解な“災い”をもたらしていく。一連の出来事が事故や自殺として処理される中、神奈川県警の刑事・堂本翠は不自然な共通点に気づき、事件の裏に潜む存在を追い始める。
日常に紛れ込む正体不明の男
この作品で香川照之は、場所を変え、名前を変え、髪型を変え、喋り方を変え、性格まで変えながら、まったく別の人物として何度も登場する。
もはやガキ使の七変化である。
石川、横浜、愛知など、舞台もバラバラ。最初は同時進行なのかとも思ったけれど、髪型があまりにも違うので「これは時系列もバラバラなんじゃないか」と思っていたら、案の定そうだった。
ただすごいのは単なる変装ではないということ。
床屋として現れれば普通に髪を切る技術があるし、塾講師として現れればちゃんと頭もよく、教える側の人間として成立している。足を引きずる人物として現れることもあり、身体の使い方まで変わる。
名前と見た目だけ変えているんじゃない。
その人物の職業や能力、性格、生活まで含めて、完全に「その人」になりきっている。
構造だけを見れば、『正体』に少し近いものを感じた。
亀梨和也主演のドラマ版や、横浜流星主演の映画版のように、一人の人間が姿や立場を変えながら各地へ現れていく。
ただ、本作の場合は逃亡者が身を隠すために別人になるのとは少し違っていて、この男は自分から他人の日常へ入り込んでくる。
大人になれば仕事や生活の中で出会った人間の素性なんて、いちいち調べないしそもそも興味もない。
初対面でも感じがよくて、自分に害がなければ、「この人は本当にこの名前なのか」「過去に何をしていたのか」「どこから来たのか」なんて普通は詮索しない。
でも、その人が実は名前も経歴も全部偽っていて、何人も人を殺している人間だったら?
ここがこの映画の核なのだろう。
なにより不祥事を起こした香川照之を久々に観たわけだけど、やっぱり彼の演技はぴか一だ。
『鬼が来た!』という作品からずっと彼のファンだけど、本作の異様な間の取り方とか存在感とかは抜群でしたね。
人は次々と死ぬのに、事件は何一つ解決しない
そして最後まで見終わって驚いたのが、この映画は結局ほとんど何も解決しないということだ。
香川照之演じる男が殺しているのだろうとは思うが、決定的な殺害シーンは最後まで一度も出てこない。
しかしそれが全部香川照之であることを観客は知っている。
彼は指紋まで徹底して拭き取り、事故や自殺として処理されるような状態まで現場を作り込む。
これだけ人物になりきることを徹底できる人間なら、証拠隠滅も当然徹底するだろうという妙な納得感もある。
ただ一つだけ共通しているものが被害者の髪の毛だ。
彼は死体の髪を妙な形に切り、その一部を持ち帰っている。
なぜ髪なのか?何のために持って帰るのか?最後まで分からない。
おそらくこれって香川照之からの挑戦状なのではないかと思う。
ヒントはあげてるのに警察は毎回「事故死」と断定してそれ以上の捜査はされない。
そして警察側で唯一、この複数の事件に何か共通点があるのではないかと疑い始めるのが堂本翠(中村アン)なのだけど、結局彼女も決定的なものはつかめないでいる。
ここでしびれを切らしたのか、唯一、愛知のプールの事件では、それまでの事故や自殺に見せかける方法とは違い、明らかな他殺として死体が発見される。
しかし事件は全く解決されることなく、香川照之(実際は名前もわからない男)によって我々観客も翻弄されることになる。
明かさない恐怖
つまり犯行パターンすら統一されていないし、共通点は髪の毛くらい。
それでは警察組織って動かないんだなということがわかりました。
後輩刑事も「連続殺人犯はいないと思います」とはっきり口にする。
これだけ人が死んでいるのに、誰も香川照之へたどり着かない。
自分はここがこの映画で一番怖いところなんじゃないかと思う。
普通のサスペンスなら、バラバラに見えた事件が一つにつながり真相へ近づき、最終的に犯人を追い詰めるが本作はそうならない。
警察から見ればそれぞれ別の場所で起きた事故、自殺、事件でしかない。
つまり、この男は社会の認識そのものから外れた場所で殺人を続けている。
事件が解決しないまま、次の被害者が生まれる。
結果だけを見れば快楽殺人犯なのかもしれないが、それすら答えとして提示しない。
当然、モヤモヤは残るが「結局、あの男は何だったんだ?」とそう考えながら、その疑問が「もしかしたらこういう人間は現実にもいるんじゃないか」というところまでつながっていく。
堂本は本作で、犯人に二回会っている。一度はエレベーターの中で。そして二回目はガソリンスタンドで。それでも彼女は香川照之に気づくことはない。
こうして残酷な殺人事件はこれからも続いていく。
あぁ、こういうミステリーもあるのね。と妙に感心してしまった。
タイトルの「災」とは?
彼の存在はまるで災害に近いのかもしれない。
災害が起きても誰も責めることができない。だって、災害だから。
突然命が奪われるのが災害である。
香川照之の役名は名前を明かしていない。一体彼自身が何者なのか最終的に明かされることはない。
しかし彼によって殺される被害者は確実に増え続ける。
それでも警察は事故死として扱い、解決することができない。
香川照之の役はまさに「災害」へのメタファーなのではないか。






