【映画】日本で一番悪い奴ら(2016)|モデルになった実話「稲葉事件」とは?シャブ女の末路・北海道警の腐敗と悪徳刑事の転落【ネタバレ考察】

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映画『日本で一番悪い奴ら』をイメージした画像 人間ドラマ

2016年に公開された映画『日本で一番悪い奴ら』。

本作は、2002年に発覚した警察史上最大級の不祥事「稲葉事件」を題材にした作品。

事件の中心人物だった元北海道警刑事・稲葉圭昭の手記『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』を原作に、白石和彌監督が映画化した。

本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。

基本情報




作品名:日本で一番悪い奴ら
原題:Twisted Justice
公開年:2016年
製作国:日本
上映時間:135分
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:稲葉圭昭『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』
出演:綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄、矢吹春奈、瀧内公美、田中隆三、みのすけ、中村倫也、勝矢、斎藤歩、青木崇高、木下隆行、音尾琢真、ピエール瀧、中村獅童
ジャンル:クライム/ドラマ

あらすじ




映画『日本で一番悪い奴ら』をイメージした画像

大学時代に柔道で鍛えた諸星要一は、北海道警の刑事となる。正義感は強いもののなかなか捜査実績を上げられずにいた諸星は、先輩刑事から「刑事は点数。点数を稼ぐには裏社会へ飛び込み、情報提供者を作れ」と教えられる。

暴力団員や裏社会の人物たちを「S」と呼ばれる情報提供者として利用し、拳銃摘発などで次々と実績を上げていく諸星。やがて道警のエースとして評価されるようになるが、成果を求めるあまり捜査手法は次第に一線を越え、拳銃の不正取引や覚醒剤密売にまで手を染めていく。

実際に起きた「稲葉事件」について。なぜ組織ではなく、稲葉一人が罪を背負ったのか




映画で綾野剛演じる諸星要一のモデルとなった稲葉圭昭は、北海道警の生活安全特別捜査隊に所属していた警察官。暴力団捜査や拳銃摘発で実績を重ね、道警内部でも高く評価されていた。

背景には、1990年代から全国的に進められていた拳銃摘発の強化がある。北海道警でも拳銃の摘発実績が強く求められ、稲葉は捜査協力者、いわゆる「S」と呼ばれる裏社会の人間たちから情報を得ながら、次々と拳銃を押収していった。

ところがその実態は普通の捜査とは大きく異なっていた。

後の裁判で稲葉自身が語ったところによれば、押収した拳銃の多くは捜査協力者との裏取引によって入手したもので、中には持ち主すら分からない拳銃を用意して摘発を装う、いわゆる「首なし銃」もあったという。

つまり犯罪を捜査して拳銃を発見するのではなく、摘発実績を作るために先に拳銃を調達する。

映画で描かれていた異常な「点数稼ぎ」は、完全な創作というわけではなく、実際に起きたというか驚きだ。

さらに稲葉は、捜査協力者との関係を維持するために飲食代や小遣いを負担するうち資金に困り、拳銃だけでなく覚醒剤の密売にも手を染めていく。

2002年7月、捜査協力者の供述から稲葉の覚醒剤使用が発覚。尿検査で陽性反応が出て逮捕され、その後、稲葉名義で借りていた部屋からロシア製拳銃と覚醒剤、自宅からは約92.9グラムもの覚醒剤が発見された。

密売によって2000万円を超える利益を得ていたことも裁判で認定され、最終的に懲役9年の実刑判決を受けている。

ここまでなら「悪徳刑事が犯罪を繰り返して捕まった」という話で終わる。

でもこの事件が本当に気持ち悪いのはそこではない。

稲葉が行っていた拳銃摘発をめぐっては、捜査書類の偽造や違法な「おとり捜査」、組織ぐるみの摘発実績作りなど、ガッツリと北海道警内部が関与していたことだ。

実際、稲葉を含む当時の拳銃対策課の捜査員4人が偽造容疑で書類送検され、事件後には北海道警本部長を含む多数の幹部・関係者が訓戒、注意、減給、戒告などの処分を受けている。

それなのに一連の拳銃摘発や覚醒剤密輸をめぐる問題について、上層部や警察幹部が稲葉と同じように逮捕・起訴され、刑事責任を問われることはなかった。

組織の仕組みそのものが違法捜査を生み、それを利用して成果を上げていたのだとしたら、一人を犯罪者として切り離して終わらせるのはあまりにも気持ちが悪い。

だから自分は、この事件で最も恐ろしいのは稲葉という一人の悪徳刑事ではなく、「一人を処罰することで巨大な組織そのものは残った」という事実なんじゃないかと思う。

なんでお前警察になったの?




映画の諸星要一は、最初はかなり教科書通りの正義感を持った若い刑事として描かれている。

作中で二度繰り返される「なんでお前は警察になった?」という質問に注目しよう。

最初にこの質問をするのは、ピエール瀧演じる先輩刑事の村井。

諸星はそれに対して警察として模範回答をするが、村井はそれを一蹴する。

犯罪者や頭のおかしい奴は世の中から絶対にいなくならない。本当にそんな人間をゼロにしたいなら、産婦人科にでもなればいい。生まれてくるガキを片っ端から殺していくしかない。刑事なんて、そいつらが社会にまき散らしたクソを掃除する仕事だ。

相当ブラックな言い方だけど、自分はこのセリフはかなり本質を突いていると思った。

人間が生きてる以上、犯罪そのものを完全になくすことはできないし、警察は起きてしまった悪事を処理していく仕事でもある。

そして物語の中盤、今度は諸星自身が新人刑事に「なんでお前は警察になった?」と質問する。

新人刑事はかつての諸星と同じように正義や社会を守るという教科書通りの答えを返すが、ここで諸星は何も言わないんです。

昔の自分もまったく同じことを言っていたのに、いつの間にか村井と同じ側にいることに気づいた諸星。

この間には、「俺、何やってるんだろう」「こんなの本当に警察なのか」「どこで間違えたんだろう」。おそらく彼自身もどこかでは分かっているんだと思う。

だから新人の模範回答を笑うこともできない。

そこには諸星の中にまだ残っている昔の自分と、もう引き返せない現在の自分が同時に見える。

一人の刑事が突然悪人になったわけではない。

巨大な警察組織の評価システムに取り込まれ、少しずつ線を越え続けた結果、気づけば犯罪者になっていた。

この二度の「なんで警察になった?」という問いは、その変化をものすごく短いセリフで見せていると思う。

覚醒剤、ダメ、絶対に。




ちなみに「シャブ女」こと高級クラブのホステス・田里由貴(矢吹春奈)は、諸星に放置された寂しさから深い孤独と寂しさを紛らわせるために、覚醒剤へと手を染めていく。

密売のトラブルや仲間の裏切りにより、諸星の人生が転落し始めた後半、他の女たちにも捨てられた諸星はかつての愛人である由貴のもとを訪れるが、そこで諸星が目にしたのは、すでに完全に覚醒剤に侵され、かつての美貌を失って正気を失った重度のシャブ中へと成り果てた由貴の姿である。

しかし諸星自身は「絶対にシャブだけは打たない」という最低限の一線を守っていた。

「人間じゃなくなるんだぞ」

由貴をビンタしながらセックスするシーンからは、自信が流出させた覚醒剤によって、最愛の女性だった由貴が完全に破壊されてしまったことに対する懺悔を感じた。

実話の稲葉氏からはホステスと関係があったかどうかは語られていないのでこのエピソードは脚本上のオリジナルの可能性があるが、しっかりと覚醒剤の怖さについても触れている。

現実は小説よりも奇なり




白石監督と言えば『凶悪』など実際に起きた事件をもとにこの世の闇社会を描く監督さん。

本作も実際に起きた出来事を、しかもなかなか忠実に描き、真実をあぶりだしている。

警察内部では拳銃を何丁摘発したかという「点数」が評価につながっている。

だったら拳銃を持ってくればよくね?ということになり、諸星は手柄を作るためにヤクザから拳銃を買い「摘発実績」を作る。

しかも警察が拳銃を欲しがっていると裏社会にも知られれば、当然チャカの値段は吊り上がるため、拳銃が買えない。でも上層部からは拳銃を求められ、銃を買うため、今度はシャブを売る。

もはや完全に犯罪である。

もはや犯罪者を取り締まっているのか、自分たちが犯罪者なのか分からない。

警察という組織そのものが、諸星に違法な成果を求め続けており、彼は北海道警という巨大な組織による被害者の一人でもある。

これがヤクザの世界だけの話ならまだ分かるが警察なのだ。

むしろヤクザよりもタチが悪い。

そこまで含めるとこの映画のタイトルである『日本で一番悪い奴ら』がものすごく皮肉に聞こえてくる。

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