2025年に公開された映画『楓』。
スピッツの名曲「楓」を原案に制作された恋愛映画。監督は『世界の中心で、愛をさけぶ』『ナラタージュ』などを手掛けた行定勲。
双子の兄が亡くなった弟になり代わるという大胆な設定を軸に、愛する人を失った喪失感や、人を想い続ける切なさを描いている。
美しい海外ロケや映像表現、スピッツ「楓」が流れるラストシーンなどが印象的な一方、物語の設定については観る人によって評価が大きく分かれる作品となっている。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:楓
原題:楓
公開年:2025年
製作国:日本
上映時間:120分
監督:行定勲
脚本:高橋泉
出演:福士蒼汰、福原遥、宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗、大塚寧々、加藤雅也
ジャンル:恋愛、ドラマ
あらすじ

ニュージーランド旅行中の交通事故で、恋人だった恵を失った亜子。事故のショックから混乱した亜子は、恵の双子の兄・涼を恵だと思い込んでしまう。そんな彼女を支えようと、涼は弟・恵として振る舞い始め、二人は奇妙な共同生活を送ることになる。やがて真実と向き合う中で、それぞれが抱える喪失や恋心が少しずつ明らかになっていく。
設定を受け入れられるかがすべて
本作は、一卵性双生児の弟・恵が事故で亡くなり、兄・涼が弟のふりをして、弟の恋人・亜子と同棲生活を送るという荒唐無稽な物語。
そう、荒唐無稽なんです。めちゃめちゃ漫画なんです。
完全に『タッチ』なんです。
正直、この設定だけ聞くとかなり現実離れしているし、弟の恋人の前で兄が弟として生活を始めるという展開は普通に考えればクレイジーすぎる。
しかも、この映画でさらに不思議なのは、亜子は途中から目の前にいるのが弟ではなく兄だと薄々気付いていること。
もうめちゃ気持ち悪いんです。ホラー映画です。
だからこそ、この作品はこの設定を受け入れられるかどうかで評価が大きく分かれる映画だと思う。
物語が進むにつれ、兄・涼が実は以前から亜子を大切に思っていたことが明らかになっていく。最初は恋愛対象として最も遠い存在だった兄が、実は誰よりも彼女を想っていたという構図になっていく。
けれどこれってラブストーリーではあるあるですよね。遠い人が実は大事に思ってたとか、犬猿の仲だけど、実は・・・的な。
つまりラブストーリーってパターンが本当にないんです。だから意外性をもたせるには対極関係という設定が必要になるわけです。
最初は結ばれるはずのなかった人物が、本当は一番相手を想っていたという構図は、ラブストーリーでは何度も描かれてきた王道パターンである。
その意味では、本作も非常にベタな恋愛映画である。
リアリズムで観ると厳しい
そもそも兄が弟になり切ることなど、本当にできるのだろうか?
弟が恋人とどんな会話をしてきたのか、どんな空気感で付き合っていたのか、兄が知るはずもない。
むしろ兄弟だからこそ、そんな恋愛事情は知りたくもないし、踏み込みたくもない領域ではないだろうか。
さらに、自分が以前から想いを寄せていた女性だったとしても、亡くなった弟になり切って一緒に暮らすという発想自体が、私にはまったく理解できなかった。
その心理がどうしても腑に落ちず、「なぜそんなことをするのか」という疑問ばかりが頭に浮かんでしまい、物語へ入り込めなかった。
おかげで作品全体がまるで長編のミュージックビデオのような中身のない映像をただ観せられているような感覚だった。
結局のところ、この映画は物語の出来よりも、「兄が弟のふりをして生きる」という設定を受け入れられるかどうかが、評価を大きく左右する作品なのだと思う。
おしゃれな映像よりも、最後まで設定への違和感が勝ってしまった
海外ロケは本当に必要だったのか?
以前観た『四月になれば彼女は』も写真家設定で海外ロケを多く取り入れていたが、本作も同じような雰囲気を感じた。
なんなの?写真家設定。
今時その設定もどうなの?しんどいんだけど。
もちろん映像はきれいなのだが、それが物語の面白さに直結しているかというと、私にはあまりそうは思えなかった。
いるかな?ただ綺麗な映像入れればロマンティックな映画になるでしょ?感。物語にあの景色とか必要ではないんですよね。
そして、やはり最後まで引っかかったのは亜子の心理だ。
彼女は亡くなった恋人が弟ではなく兄であることに気付きながらも、その関係を受け入れ、一緒に暮らし続ける。この心情が私にはどうしても理解できなかった。
悲しみの中で正常な判断ができなくなることはあるとしても、それだけで説明できる話には思えなかったのである。
もちろん、これはフィクションであり、現実ではあり得ない設定だからこそ成立する物語なのだろう。
しかし、私は映画を観る時にどうしてもリアリティを重視してしまう。
そのため、「もし現実で友人がこんな状況だったら、自分は間違いなく止めるだろう」と考えてしまい、物語の世界へ入り込めなかった。
だからこそ、この作品を受け入れられるかどうかは、最初の設定をどこまでファンタジーとして飲み込めるかに尽きると思う。
設定を受け入れられれば感動作になるのかもしれない。
しかし、私は最後までその違和感をごまかすことができず、物語よりも「本当にそんなことをするだろうか」という疑問が勝ってしまった。
映像は美しく、福原遥さんをはじめ俳優陣の雰囲気も素晴らしい。それだけに、私としては「設定」があまりにも強すぎて、最後まで感情移入できなかった。
雰囲気映画としては魅力的だったが、物語としては最後まで納得できなかったというのが率直な感想である。
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