2023年に公開された映画『#マンホール』。
監督は『私の男』『658km、陽子の旅』などの熊切和嘉、脚本は岡田道尚が手がけるオリジナル作品。
マンホールという限定空間とSNSを組み合わせ、一人の男の脱出劇を描いたシチュエーションスリラー。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:#マンホール
原題:#マンホール
公開年:2023年
製作国:日本
上映時間:99分
監督:熊切和嘉
脚本:岡田道尚
原作:なし(オリジナル脚本)
出演:中島裕翔、奈緒、永山絢斗、黒木華
ジャンル:スリラー/サスペンス
あらすじ

不動産会社で営業成績トップの川村俊介は、社長令嬢との結婚式を翌日に控え、順風満帆な人生を送っていた。しかし結婚式前夜、渋谷で開かれたパーティーで泥酔し、帰宅途中にマンホールへ転落してしまう。
深夜、穴の底で目を覚ました川村は脚を負傷して身動きが取れず、スマートフォンのGPSも誤作動。警察にもいたずらだと思われ、唯一連絡が取れた元恋人の工藤舞に助けを求める。
やっぱりアホが物語を作る
結婚式を翌日に控えた男が、何者かに薬を盛られて気づいたらマンホールに落ちるている。
なんで結婚式前夜に飲むんだよ。
まともに翌日のことを考えている人間なら飲みにいくことはないが、そんな常識人なら映画としてそこで終わってしまうので、主人公にはアホでいてもらわないと困るわけだ。
いつだって作品はアホか、貧困から生まれるからだ。
主人公の川村は脚を負傷し、助けを求めた元カノの舞がよりによって都合よく看護師。電話で指示を受けながら自分で傷口を縫合する。縫合と言ってもホッチキスだけどね。
マンホールという限られた空間だけで99分持たせなければならないから、次から次へとトラブルを追加している感じもある。
そして何より電話をし、SNSをやり、動画を撮るためにスマホそのものを投げる。
いや、速攻で電池切れるだろ。
警察に電話してもGPSが示す神泉周辺には該当するマンホールがないとして、まともに取り合ってもらえない。そこで「警察は当てにならない」と、今度はSNSに「マンホール女」というアカウントを作り、ネットの特定班に救助を求める。
なぜか頑なに警察を頼ようとしない川村。この前半の時点では彼は「自分自身が吉田だ」ということを忘れた状態である。
だから彼は警察を無意志に避けていたという解釈は一応できるものの、この時点で観客は「もっと警察を頼れよ」と突っ込まざるを得ない。
本作の大きな特徴は、前半と後半でガラッと川村という人物の正体が変わってしまう点にある。
もう別に助からなくてもいい
マンホールの中で死体を発見した川村は、自分の過去と向き合うことになる。
そして判明するのが、視聴者がずっと川村俊介だと思って観ていた男は、そもそも川村俊介ではなく、「吉田」という人物だったということ。
10年前、吉田はパッとしない自分の人生から抜け出すため、一流企業のエリートだった本物の川村俊介を殺害し、その顔に整形し、川村の人生そのものを乗っ取って10年間生きてきた男だったのだ。
そして今回落とされたマンホールは、かつて自分が本物の川村を殺して遺棄した場所でした。
自分が殺した男を捨てた穴に、今度は自分が落とされる。
完全に因果応報である。
しかも吉田って、正体が分かる前から何となく嫌なやつなんですよね。
ワンシチュエーションもので、ダニー・ボイルの『127時間』の主人公とは大違い。
だから観客としても最初から「絶対に助かってほしい」と思うほど感情移入していない。
ここから脱出できるかどうかのドキドキが一気に薄くなるのも当然で、だって全部自業自得なんだから。
これは無理やりミステリー要素を絡めてしまったが故。
いわゆる「SNSを使った脱出劇」にすれば、主人公を嫌なやつに描く必要がなかったわけだが、「実は主人公が殺人犯でした」というミステリー要素を絡めたことによって今度はドキドキ感が失われてしまったのかな。
SNSに救いを求め、SNSを利用しようとして、最後はSNSに殺される
まぁ、オチとしては「舞」として吉田と連絡を取っていた相手の正体も、本物の川村の元恋人・折原奈津美だったということ。
つまりこれは救出劇ではなく、復讐劇でした。
でも吉田のスマホをいじってGPSの位置をずらしたとか、なんだか色々と現実味が欠けるんですよね。
この映画で興味深かったのはSNSの使い方。
吉田は警察ではなくSNSに救いを求める。
ネットの特定班が情報を集め、場所を割り出そうとする。中には面白半分で参加している人間もいれば、本気で「マンホール女」を救おうと現場まで動く人間もいる。
SNSには「救い」もあるが同時に「怖さ」もある。
一度「祭り」になれば、赤の他人が勝手に情報を掘り始め、本人が見たくないものまでどんどん暴かれていく。
吉田はその力を利用しようとした。
自分を男性ではなく「マンホール女」という女性に設定して、より多くの人間から注目を集め、ネット民を自分の救出に利用しようとする。
ところが最後にその嘘が完全に自分へ返ってくることになる。
ようやくマンホールから脱出した吉田は、奈津美に「妻のお腹に子どもがいる」と命乞いする。奈津美は一度は揺れて立ち去ろうとするが、吉田はその隙に襲いかかる。
そこへ現れるのが「深淵のプリンス」。
彼は実直に「マンホール女」を助けに来たのだ。
だから目の前で男が女を襲っている光景を見て、女性である奈津美の方を「マンホール女」だと思い込み、吉田をボウガンで撃つ。
吉田は再び自分が本物の川村を捨てたマンホールへ落ちていく。
自分を助けるために作った「マンホール女」という嘘によって、最終的に助かったのは奈津美だった。
SNSに救いを求め、SNSを利用しようとして、最後はSNSによって殺されるという皮肉が効いている。
SNSには人を救う力がある一方で、すべてを暴き、面白半分の人間まで巻き込み、制御不能の「祭り」にしてしまう怖さもある。
主人公には最後まで何ひとつ共感できないし、途中には「都合いいな」と思う展開も結構あるが、ワンシチュエーションという制約の中で、スマホとSNSだけでここまで話を転がしたアイデアは面白いとは思った。




