2022年に公開された映画『グッド・ナース』。
『グッド・ナース』は、アメリカ史上最悪級の医療殺人事件として知られるチャールズ・カレン事件をもとに製作された実話サスペンス。原作はジャーナリストのチャールズ・グレイバーによるノンフィクション『The Good Nurse』。
監督は『アナザーラウンド』の脚本でも知られるトビアス・リンホルム。主演のジェシカ・チャステインが看護師エイミーを、エディ・レッドメインが連続殺人犯チャールズ・カレンを演じています。
映画としては大きな盛り上がりって特になくて、むしろ地味な展開です。とは言え、実話ということを念頭に置いて観ると観方が若干変わるというか・・・
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
- 作品名:グッド・ナース
- 原題:The Good Nurse
- 公開年:2022年
- 監督:トビアス・リンホルム
- 脚本:クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
- 音楽:ビオルン・エリクソン
- ジャンル:サスペンス、犯罪、実話
- 上映時間:121分
- 製作国:アメリカ
- 主なキャスト:
- ジェシカ・チャステイン
- エディ・レッドメイン
- ナムディ・アサモア
- キム・ディケンズ
- ノア・エメリッヒ
あらすじ

シングルマザーの看護師エイミー・ローレンは、重い心臓疾患を抱えながら過酷な勤務を続けていた。そんな彼女の職場に、親切で献身的な看護師チャーリー・カレンが配属される。
チャーリーはエイミーや彼女の家族を支え、二人は深い信頼関係を築いていく。しかし病院内で原因不明の患者死亡が相次ぎ、捜査が進むにつれてチャーリーに疑惑の目が向けられる。
親友だと思っていた男が本当に犯人なのか。エイミーは真実を追いながら、自らの信念と向き合うことになる。
チャールズ・カレンは本当に「怪物」だったのか
本作を観ていて最も不気味だったのは、チャールズ・カレンがいわゆる映画的な怪物として描かれていないということ。
連続殺人犯と聞けば、狂気に満ちた人物や暴力的な人物を想像するが本作のチャールズはむしろ静かで親切で、疲れ果てたエイミーを助ける存在として登場する。
娘の面倒を見てくれ、仕事を手伝ってくれて、エイミーに寄り添っている。
殺人なんてしてなければ親友にでもなっていたであろう。
実際のチャールズ・カレンも多くの同僚から「優秀で親切な看護師」と評されていたようです。
しかしその裏で、彼は16年間にわたり複数の病院を渡り歩き、患者を殺害し続けていた。
その数400人・・・。
本作では単純なサイコパス像を描こうとしておらず、徹底して「普通のいい人」として描いているのが特徴。
エイミーは病気を患いながらも子育てや仕事の三重苦によって徐々に追い詰められていき、まるでチャールズは「エイミーを助けるために患者を減らしていたのではないか」という解釈すら成立してしまう。
だからと言って殺人を犯していいという免罪符にはならないが、医療現場の過酷さが伝わるようなシーンの連続で観てるこっちもちょっとうんざりさせられた。
チャールズより怖い病院の存在
本作、むしろチャールズ・カレン以上に恐ろしく感じるのが病院組織だ。
実際の事件を調べると、その異常さがよく分かる。
カレンは勤務先で問題を起こしており、精神面でも問題があって、薬剤の使用履歴も不自然で、患者の不審死も発生していた。
にもかかわらず彼は解雇されるだけで終わっている。
そして次の病院へ移り、また患者が死に、また別の病院へ行く。
その繰り返しだ。
なぜこんなことが起きたのか。
答えは単純で、病院が責任を取りたくなかったからである。
不祥事が公になれば病院の評判が落ちるため、病院の弁護士たちは真実解明より組織防衛を優先する。
だから内部で処理した方が都合がよく、結果として殺人犯は次の病院へ送り出されることになる。
当時、精神的問題や勤務上でトラブルを抱えている看護師について通報するための仕組みがなく、そのうえ全国的に看護師が不足していたため、チャールズは次々に仕事を見つけることができた。
こう考えると400人の犠牲者はチャールズだけの責任ではなく、病院という組織の沈黙も自然と加担していたことになる。
「汚いものは蓋を」
まぁ、これって別に医療業界だけの話ではなくて学校でも何でもどこでも起こりうることですよね。
「グッド・ナース」とは
タイトルの『グッド・ナース』は当然エイミーを指していると誰しもが思うだろう。
しかしチャールズもまた、患者に優しく、同僚に親切で、仕事もできるという点において多くの人にとっては「良い看護師」だった。
何を「良し」とするかの問題だけど、
看護師が不足している医療現場で、疲弊し医療従事者は限界まで働いている状況の中で、「負担が減ること」は看護師たちにとっては「嬉しい事態」なのではないか?
超嫌な見方ですけど。
だから本作のタイトルのつけ方って実はけっこう深くて、だからこのざっくりとしたタイトルをつけたのでしょう。
最後の最後までチャールズの殺人の動機が語られることなく映画は終わってしまう。
実際のチャールズも「自分が過量投与をしたことで、患者の苦痛を終わらせ、病院職員が彼らを非人道的に扱うことを防いだ」と主張している。しかし彼の犠牲者は全員が末期患者などではなく、回復途上の患者たちもいたので正直言ってよくわからない。
動機なんてなかったのかもしれない。
このわからないというのもリアルでした。
本作は単なる連続殺人鬼の映画ではなく、過酷な労働環境と保守的な病院組織が招いた構造の話でもある。
チャールズ・カレンを止められなかった社会そのものなのなのかも。





