2003年に公開された映画『キル・ビル Vol.1』。
いやあ、めちゃくちゃ面白かった。
本作は、復讐という古典的なテーマを、日本の漫画やチャンバラ映画、アニメ、ゲームと融合させ、とてつもないエンターテインメントへ仕上げた作品だった。
リアリティはないが、最初から最後まで「漫画の実写版」として突き抜けているからこそ、観客も理屈を考えず、その世界へ飛び込める。
当初は一作品として制作されたが、完成版が4時間を超える長さとなったため、『Vol.1』と『Vol.2』の二部作に分けて公開された経緯がある。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:キル・ビル Vol.1
原題:Kill Bill: Volume 1
公開年:2003年
製作国:アメリカ
上映時間:111分
監督:クエンティン・タランティーノ
脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ヴィヴィカ・A・フォックス、マイケル・マドセン、ダリル・ハンナ、デビッド・キャラダイン、千葉真一、ジュリー・ドレフュス、栗山千明、ゴードン・ラウ、大葉健二
ジャンル:アクション、格闘、クライム
あらすじ

妊娠を機に殺し屋稼業から足を洗ったザ・ブライドは、結婚式のリハーサル中、かつて所属していた暗殺組織のボス・ビルと、その配下である殺し屋たちの襲撃を受ける。婚約者や参列者を殺され、自身も瀕死の重傷を負った彼女は、4年間の昏睡状態に陥った。
やがて目を覚ましたザ・ブライドは、自分の人生を奪ったビルと4人の殺し屋への復讐を決意する。日本へ渡った彼女は、沖縄に暮らす伝説の刀鍛冶・服部半蔵を訪ね、復讐のための日本刀を手に入れる。そして最初の標的として、東京の裏社会を支配するオーレン・イシイのもとへ向かう。
冒頭10分で心を完全につかまれた
もう冒頭から完全にタランティーノ節が炸裂している。
余計な説明はほぼない。主人公であるザ・ブライドが何者なのか、なぜ復讐をするのかを長々と説明することなく、一気に物語へ引き込んでいく。
主人公のブライド役はユマ・サーマンですよ。『パルプ・フィクション』で印象深かった美人です。
妊娠中だったザ・ブライドは、結婚式の予行演習の最中でビル率いる暗殺集団に襲撃される。婚約者だけではない。その場にいた神父までも殺され、自分のお腹の子どもまで奪われてしまう。
この設定だいぶへヴィすぎるでしょ。ここまで徹底的に主人公からすべてを奪う映画も珍しい。一体どんな恨み買ったのよ・・・フィクションとはいえ、「よくこんな残酷な設定を思いついたな」と驚かされた。
だからこそ復讐劇として、これ以上ないほど説得力のある導入だ。
ザ・ブライドは最初の標的であるヴァニータ・グリーンの家へ向かい、いきなり壮絶な格闘戦が始まる。
しかし途中で娘が学校から帰ってくると、さっきまで本気で殺し合っていた二人が、一瞬で普通の母親と友人へ切り替わり、家の中はボロボロなのに「犬が暴れたの」「友達なの」と自然に会話を始める。
この切り替えが実に面白い。なにこのブラックユーモア!
セリフで説明するのではなく、映像だけで状況を理解させる演出力は見事。
映画が始まってまだ10分も経っていないのに、この作品は絶対に面白くなると確信させられた。
日本の漫画、アニメ、チャンバラ映画への愛情
本作は日本文化への愛情が、とにかくすごい。
画面を二分割する漫画のような演出、テンポのいいカット割り、そしてオーレン・イシイの過去を描くアニメーション。
特にアニメパートは本当に見入ってしまうほど完成度が高かった。
アニメーションのキャラクターデザインには『鮫肌男と桃尻女』などの石井克人も参加している。
このおかげで敵であるオーレン・イシイがどんな人生を歩み、なぜ冷酷なボスになったのかまで描くことで、悪役ではなく一人の悲劇的な人物として理解できる構成になっている。
そして沖縄で千葉真一演じる服部半蔵と会話するザ・ブライド。戦闘中の鋭い表情とは違い、この時のユマ・サーマンは本当にチャーミングだったな。千葉真一は演技上手いのか下手なのかよくわからない役者ですね。圧倒的存在感はあるけど。
しかし自分的には気に食わないのが、東京が舞台なのに、裏社会のトップがオーレン・イシイという中国系アメリカ人であること。
もちろんこの設定には、血筋を重んじる日本のヤクザ社会で、純粋な日本人ではない彼女が差別や反発を受け、それでも実力だけで頂点へ上り詰めたという背景があるので一応は説得力はあるものの、どうせなら日本人としてのボスキャラであって欲しかったのが本音。
栗山千明はタランティーノが『バトル・ロワイヤル』を観て彼女の起用を考えたそうだ。
ちなみに本作で出てくるガールズバンド「The 5.6.7.8’s」は本作を機に世界で大ブレイクした。
漫画だからこそ成立する、圧巻の剣術シーン
主人公がどこで剣術を覚えたのかそんなことを真面目に考えるのは野暮ってものだ。
この映画は最初からリアリティではなく、日本の漫画やチャンバラ映画を実写へ落とし込んだ世界なのだから。
終盤のアクションシーンはとにかく圧巻だった。
戦闘シーンは長くなるほど飽きてしまうが、本作では途中で画面が白黒へ切り替わったり、襖越しのシルエットだけで戦わせたり、まるでミュージックビデオのような映像表現になったりと、とにかく演出の引き出しが多い。
腕が切断され、血が勢いよく噴き出し、その飛び散った血しぶきがカメラのレンズへ付着するという非常に細かい演出まであり、かなり徹底して作り込まれているなぁと感心させられた。
もちろん拳銃を使えば終わるというツッコミも野暮だ。
何度も言うが、この作品はリアルを描く映画ではないのだ。
だから刀同士で決着をつける。
だからラスボスであるオーレン・イシイとの戦いも、襖が開いた瞬間、突然雪景色の庭園へ舞台が変わる。
まるでゲームのボス戦でステージが切り替わるような演出だった。
日本の漫画、ゲーム、チャンバラ映画とその世界観を丸ごと映画へ持ち込んだからこそ、このクライマックスは唯一無二の映像になっている。
ここまで日本を愛してくれたタランティーノに拍手を送りたい
ユマ・サーマンが日本刀を振るう姿は本当に格好よくて、最後にオーレン・イシイの頭頂部が一太刀で切り落とされ、その直後に流れる演歌もイカす。
タランティーノ、どれだけ日本が好きなんだよ!と思わず笑ってしまった。
海外から見た少し誇張された日本もある。それでも、日本人が見ても分かってるなと思える描写が本当に多い。
表面的な和風ではなく、日本映画や漫画への深いリスペクトが伝わってくる。
だからこの映画は、アメリカ映画でありながら、日本文化へのラブレターのようにも感じられた。
『Vol.1』だけでここまで面白いと、逆に『Vol.2』は大丈夫なのかと心配になるほど完成度が高い。
それくらい、この前編は拍手喝采だった。
文句なしに大満足。
続く『キル・ビル Vol.2』への期待が自然と高まる、最高の復讐活劇だった。
vol.2の考察記事↓







