2024年に配信されたNetflixオリジナルドラマ『地面師たち』。
本作を観て、特に犯罪を肯定するわけではないが、「人はどうやって騙されるのか」という視点で見ると、ある種のケーススタディとしても非常に興味深い作品だった。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
作品名:地面師たち
原題:Tokyo Swindlers
公開年:2024年
製作国:日本
上映時間:全7話
監督:大根仁
脚本:大根仁
出演:綾野剛、豊川悦司、北村一輝、小池栄子、ピエール瀧、染谷将太、リリー・フランキー、山本耕史
ジャンル:クライムサスペンス、犯罪ドラマ
あらすじ

かつて父親が地面師詐欺の被害に遭い、家族を失った辻本拓海。人生のどん底にいた彼は、伝説的地面師であるハリソン山中に見出され、土地所有者になりすまして不動産会社から大金を騙し取る地面師グループの一員となる。
次なる標的は、都内一等地にある超高額物件。ハリソン山中率いる地面師たちは、地主の身代わり役の準備から関係者への接触、本人確認の突破まで周到な計画を進めていく。しかし彼らを追う警察の捜査も徐々に迫り、計画は危険な局面を迎える。
実話はどこまで?
本作フィクション作品ではあるものの、その土台となっているのは2017年に発覚した積水ハウス地面師詐欺事件である。被害額は約55億5,000万円。当時、日本中を震撼させた大型詐欺事件だ。
ドラマでは100億円規模の取引として描かれているが、実際の事件でも55億円超という途方もない金額が動いていた。舞台もドラマでは高輪だが、実際の現場は五反田だったと言われている。
また、土地所有者になりすました人物が登場することや、有力物件を他社に取られたくないという焦りにつけ込む手口、さらには法律や本人確認制度の隙を突くやり方など、事件の骨格部分はかなり忠実に再現されているようだ。
だからこそ本作は単なる犯罪ドラマでは終わらない。巨大企業であっても、人間の思い込みや組織の脆弱性を突かれれば騙される。積水ハウス事件は、そうした教訓を社会に突きつけた事件でもあった。
ただし物語の重要人物として登場する尼僧は実際には存在せずフィクション。
劇中では俗世を離れた立場でありながら、ホストクラブに通い大金を使うという強烈なキャラクターとして描かれ毎晩のようにホスト遊びに興じ尼さんセックスはインパクトありましたね。
実際の土地所有者は旅館を経営していた高齢の女将だったとされている。
実際、私には知人のハウスメーカーがいて聞くとこの事件は業界内でも非常にセンシティブな話題だという。それだけ関係者に与えた衝撃は大きかったのだろう。
クライムサスペンスとして抜群に面白い
本作が優れているのは、犯罪者を主人公にしながらも視聴者を自然と彼らの側に立たせてしまう点。
もちろん地面師たちがやっていることは完全な犯罪であり倫理的に許されるものではないが、見ているうちに「捕まってほしくない」「今回も成功してほしいかも」と思わされる。これこそクライムサスペンスの醍醐味であり、本作が多くの視聴者を惹きつけた理由でもある。
一方でどこかで必ず破綻することも分かっている。
成功してほしい気持ちと、いつか終わりが来るという不安。
その絶妙なバランスが最後まで緊張感を維持し続ける。先の展開が気になり気づけば次の話を再生してしまう。構成の巧みさは見事というほかない。
さらに本作を支えているのが圧倒的なキャスティングだ。綾野剛をはじめ、ハリソン山中を演じた豊川悦司の存在感は圧巻。相変わらずの安定感の悪人をやらせたらピカイチのピエール瀧、北村一輝の蛇のような不気味さ、坊主にまでなった小池栄子も強烈な印象を残していた。
誰ひとりとして埋もれることなく、それぞれが強烈な個性を放ちながら物語を成立させている。
そしてハリソン山中たちを追い詰める刑事役のリリー・フランキー、そして物語の中で壮大な騙され役となる青柳を演じた山本耕史。さらにマキタスポーツをはじめ、脇を固める俳優陣まで強烈な個性派ばかりである。誰か一人が目立つのではなく、それぞれが確かな存在感を放ちながら物語を成立させている。
というかピエール瀧とリリーフランキーの『凶悪』コンビやん。
もはやこのキャスティングの時点で半分成功していると言っても過言ではないだろう。
騙す者と騙される者が生み出す緊張感
本作を振り返ると結局すべてはハリソン山中というキャラクターに集約される気がする。
作中でも特に印象的だったのが、リリー・フランキー演じる刑事を始末するシーン。
映画『ダイ・ハード』の敵役のアラン・リックマンが高所から落下するシーンで、監督は「3で落とす」と伝えていたにもかかわらず実際には「1」で落とし、その結果本物の驚きが表情に現れ名シーンになったと言われているエピソードになぞってリリーフランキーを突き落とすシーン。
あのシーンは妙にテンポが遅く、あえてじわじわと時間をかけていく。観ている側は「殺されるんだろうな」と分かっているが目が離せない。刑事自身も迫り来る死を感じ取っているようで、その空気感が嫌な緊張感(いい意味で最高の演出)だった。
そして最後までハリソン山中が何者だったのかはよく分からないまま物語は終わってしまう。
でもそれが妙なこの作品の余韻になってると思います。
作品というのは何でも説明すればいいわけではなく、むしろ説明しないからこそ恐ろしい存在というものがある。もしハリソン山中の過去や生い立ちを細かく描いてしまったら、逆にキャラクターとしての魅力は薄れていたかもしれない。
そう考えると、『地面師たち』の真の主人公は拓海ではなく、実はハリソン山中だったのではないかとさえ思えてくる。
一方で、この作品を支えているのは騙す側だけではない。
騙される側の青柳の存在もまた非常に大きい。
この物語って言ってしまえば壮大な騙し合いであり、プロレスである。騙される側にも説得力が必要だ。
青柳は有能だからこそ自信があり、自信があるからこそ自分が騙されるとは思っていない。
視聴者は本来であれば青柳側に感情移入するべきなのかもしれないがむしろ「早く騙されてくれ」と期待しながら観てしまう。
そして実際に騙された瞬間の青柳の表情には、何とも言えないカタルシスがあった。
善悪の立場や感情が時に何度も入れ替わる。犯罪者を応援している自分に気付きながら、それでも彼らの計画が成功するところを見たくなってしまうという心理が働くのだ。
騙す者と騙される者。この二人の存在こそが、『地面師たち』という作品の骨格を作っていたのではないだろうか。
続編について
なお、『地面師たち』は続編制作が進行中と報じられている。撮影自体はもっと早くスケジュールされていたが、豊川悦司の体調問題もあって延期になり、2026年夏頃から撮影がスタートする予定と言われいる。再びハリソン山中の物語が描かれる可能性は高そうだ。
ただ個人的には、ハリソン山中という人物をすべて説明してしまう必要はないと思っている。得体の知れない部分が残っているからこそ、このキャラクターは恐ろしく魅力的だった。続編が制作されるとしても、その余白だけは残してほしいかな。
続編がどのような形になるのか、今から楽しみである。





