2009年に公演された『下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。』
本作は大泉洋が脚本を手がけたTEAM NACSの代表作の一つ。
物語そのものは決して奇抜ではなく、「ヤクザになった次男が帰ってきたことで巻き起こる家族の騒動」という王道のホームドラマだ。
しかし本作の魅力はストーリー以上に、TEAM NACSの5人が何役も演じ分ける舞台ならではのライブ感と絶妙な会話劇にある。
TEAM NACS入門にもおすすめの本作品の魅力を紹介します。
基本情報
作品名:下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。
公演年:2009年(初演)
製作国:日本
脚本:大泉洋
演出:森崎博之
出演:TEAM NACS(森崎博之・安田顕・戸次重幸・大泉洋・音尾琢真)
ジャンル:演劇、コメディ、ホームドラマ
あらすじ

北海道で暮らす下荒井家の四兄弟。ある日、長年音信不通だった次男が突然帰ってきたことから、家族の日常は思わぬ方向へ転がり始める。
借金や恋愛、兄弟それぞれが抱える事情が次々と明らかになる中、笑いに満ちたドタバタ劇は、やがて家族だからこそ言えなかった本音へとつながっていく。
兄弟の絆を描いた、TEAM NACSらしい笑って泣けるホームドラマである。
大泉洋脚本は良くも悪くも。
私はもともと舞台というものをほとんど観てこなかった。舞台だけはどうしても敷居が高いイメージがあったのだ。
そんな考えを変えてくれたのがTEAM NACSだった。
もちろん今でも生で観劇したことはない(チケット取れないんだもん)。知人からDVDを借りて何作品か鑑賞しただけだ。
それでも「舞台ってこんなに面白いんだ」と思わせてくれたのは間違いなく彼らだった。
観始めてすぐに思ったのが、「ドラバラ鈴井の巣」の『山田家の人々』と雰囲気がよく似ているということだった。
どちらも大泉洋が脚本を書いていた。
大泉洋の作品には笑って泣けるという共通した空気がある。
もちろん良くも悪くも「どこかで見たことがある」と思うような既視感はある。
設定だけを見れば決して新しくはないが、それでも不思議と最後まで見入ってしまう。
それは物語が面白いというより、大泉洋という人間が持っている空気感が作品全体に染み込んでいるからなのだと思う。
大泉洋の原風景が見えてくる
本作を観てると、大泉洋という人はきっと家族仲が良かったんだろうなと勝手に想像してしまう。
もちろん本人の家庭環境を知っているわけではないが、作品から漂ってくる空気がそう思わせるのである。
描かれる家族は、ものすごく裕福でもない。
かといって絶望するほど不幸でもない。
どこにでもありそうな、ごく普通の家庭。
そしてその家族の中には本当の意味で悪人はいない。
兄弟だから喧嘩もするし、くだらないことで笑い合う。
そんな当たり前の日常を描いている。
派手な設定や奇抜な展開で観客を驚かせる作品はたくさんあるが、「どこにでもある普通の家族」を描いて、多くの人に共感してもらう作品をゼロから生み出すのは、それ以上に難しい。
だからこそこの作品には大泉洋自身の原風景のようなものが色濃く映し出されているように感じた。
TEAM NACSだから成立する絶妙なバランス
TEAM NACSの強みは、5人の個性が見事に噛み合っていることだ。
まずリーダーの森崎博之。
この人は愚直で少しバカっぽい人物を演じるのが本当にうまい。
しかし実際は脚本も書けるし、演出もできる。TEAM NACSをまとめるだけの知性を持っている。
つまり「バカを演じられる賢い人」なのである。
安田顕は何をやってもどこか不器用だ。
だがその不器用さこそ最大の武器になっており、役によって全く別人になれるカメレオン俳優であり、感情表現の豊かさはTEAM NACSでも群を抜いている。
戸次重幸は天然な部分もあり、少し抜けているようにも見える。
しかしコメディもシリアスも、さらには女装まで自然にこなしてしまう万能型だ。
そして大泉洋はとにかく器用である。
頭の回転が速く、サービス精神も旺盛。役者としても脚本家としても、エンターテイナーとしても一流だと改めて感じる。
そして実は最も舞台で輝いて見えるのが音尾琢真である。
顔だけでも笑いが取れ、感情表現が非常に豊かで、笑わせた次の瞬間には胸を締め付けられるような演技を見せる。
TEAM NACSは5人全員の個性がまったく違っていて、それぞれが欠けても成立しない。
この絶妙なバランスが長年愛され続けている理由なのだろう。
5人だけで何役も演じる。TEAM NACSだからこそできる舞台
この作品に出演するキャストは、基本的にTEAM NACSの5人だけである。
だから一人二役は当たり前。
ヤクザになったかと思えば、次の場面では全く別人になり、時には女装までこなしてしまう。
しかもその女装は本当に女の人に見えるから凄い。
これは『HONOR』の時も感じたことだが、TEAM NACSの舞台にはこういう不思議な説得力があって、登場人物自体は決して少なくない。
それなのに「あれ、この人誰だっけ?」と混乱することがほとんどないのが凄い。
舞台だからこそ役者の演技力がそのまま作品の面白さになる。
TEAM NACSはその部分が本当に強い。
舞台を観たことがない人にこそ勧めたい一本
私のレビューは普段、ネタバレ全開で書くことが多いが、本作はあえてネタバレを避けて書いた。
何も知らない状態で観てほしいからである。
舞台は敷居が高い。
そう思っている人ほどこの作品を観てほしい。
下手な映画を一本観るよりよほど満足感がある。
『下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。』は、TEAM NACSという演劇集団の魅力が凝縮された一本であり、「舞台って面白い」と心から思わせてくれる作品だった。
笑って、少し泣いて、最後にはTEAM NACSという5人をもっと好きになってるから。






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