基本情報
- タイトル:ロストケア
- 公開日:2023年3月24日(日本)
- ジャンル:社会派サスペンス/ヒューマンドラマ
- 上映時間:114分
- 監督:前田哲(『こんな夜更けにバナナかよ』など)
- 脚本:龍居由佳里、前田哲
- 原作:葉真中顕(はまなか・あき)による同名小説『ロスト・ケア』(第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作)
- 配給:日活/東京テアトル
👥 主なキャスト
- 松山ケンイチ:斯波宗典(しば・むねのり)
→ 介護ヘルパー。連続殺人の容疑者となる。 - 長澤まさみ:大友秀美(おおとも・ひでみ)
→ 検察官。斯波を追及しつつも、事件の本質に迫っていく。 - 鈴木保奈美、柄本明、坂井真紀、戸田菜穂 などが脇を固める。
あらすじ

介護の現場で起きた高齢者の“連続不審死”。
逮捕されたのは、献身的な介護ヘルパー・斯波宗典。彼は罪を認めながらも、「これは殺人ではなく“救済”だった」と語る。
検察官・大友秀美は、冷静に彼を追及する立場でありながら、斯波の行動の裏にある“介護の現実”や、“人間の尊厳”といった根本的な問題に直面していく。
斯波は本当にただの殺人犯なのか? それとも、見捨てられた人々の“救世主”だったのか?
善と悪、その境界はどこ?
『ロストケア』が突きつけてくるのは、「善と悪は誰が決めるのか?」という問いである。
被害者は40人以上。それだけ聞けば凶悪な連続殺人犯だ。
だが、被害者は認知症を患った老人のみ。
そして彼が主張するのは介護をする家族を救いたかったということ。
金銭的にも誰しかもが老人ホームにいれられるわけでもない。だが自宅で介護をしようとすればかなりの負担になってしまう。そんな家族を救うために殺人を犯したという。
遺族の一人が語る。「救われました」と――。
「終わって欲しかった」「ありがとうとは言えないが、わかってしまう」。
この言葉の重さが、この映画のすべてを物語っている。
演技と構成が生む「揺さぶり」
松山ケンイチの演技は淡々としているが、その目は終始「使命感」に満ちている。
彼は決して感情的に怒鳴らず、叫ばない。ただ理路整然と語る。
「これは殺人ではなく、介護の延長だった」と。
長澤まさみ演じる大友は、理性と倫理の間で揺れる。
「法の正義」と「人としての正義」、その狭間で彼女もまた苦しむ。
人間が決めた善悪ではかろうとする長澤まさみ、人が決めた善悪ではからず、真理で行動した松山ケンイチ。
「僕を死刑にするあなたも正しい。そして僕も正しい。」
じゃあこの斬波を責める人っているのかな?
二人の静かな対話が、この映画の見どころだ。
派手な演出はないが、言葉の一つひとつが観る者の心をえぐってくる
そうそう、悩んでる時によく言うよね。
「お前の気持ちわかる」って。あれはほんと?
お前が俺の立場にたってようやくイーブンじゃない?とよく思う。
介護の「現実」に向き合う
この映画が観客に問いかけてくるのは、
「あなたが介護者の立場だったら?」という現実。
親の介護、自分の老後、制度の限界…
誰にとっても「他人事ではないテーマ」だからこそ、この映画は静かに、強く刺さる。
終始「価値観の対立」ではなく、「視点の違い」を浮き彫りにする。
被害者の遺族のセリフ。
「救われました」。
つまり善と悪という枠組みが崩れた瞬間だ。
本音は怖い。だから40人以上も被害者がいても事件性を疑わなかったし、【終わって欲しかった】のかも。
介護は親を持つ者なら誰しもがぶち当たる問題だからこそ怖い。怖いがこれが現実。
久々に見ごたえのある日本映画だった。
まとめ:この映画は「答え」を出さない
『ロストケア』は、犯人を断罪するための映画ではない。
観客に「考えるきっかけ」を渡す映画だ。
観終わったあと、すぐに誰かと話したくなる。
答えは出ない。だけど「それでいい」。
この映画を観た人すべてが、「それぞれの立場」でこの問題に向き合うことだ。
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