2023年に公開された映画『花腐し』。
何気なく観始めたら白黒映画だし、いまの映画の雰囲気にない感じでついつい見入ってしまった。
あ、音量には注意しましょう。その理由はのちほど。
本記事ではネタバレ全開で感想考察していきます。
基本情報
・作品名:花腐し
・公開年:2023年
・監督:荒井晴彦
・脚本:荒井晴彦/中野太
・音楽:柴田奈穂/太宰百合
・ジャンル:ドラマ
・上映時間:137分
・製作国:日本
・主なキャスト:綾野剛/柄本佑/さとうほなみ
あらすじ

かつてピンク映画監督として活動していた栩谷は、かつての恋人であり女優だった祥子の面影を追いながら生きている。映画業界から距離を置き、過去に取り残されたままの男だ。
ある日、彼は立ち退き交渉の依頼を受け、古びたアパートに住む男・伊関と出会う。伊関は売れない脚本家であり、かつて同じ業界にいた過去を持つ男だった。
やがて二人は、同じ女性・祥子を愛していたという事実で繋がっていく。過去の記憶、交わらなかった時間、そしてそれぞれの「創作」と「欲望」が交差し始める。
白黒の現在、カラーの過去の謎
この映画、まず最初に違和感として残るのが「白黒」の現在パート。
普通に考えれば、白黒にする理由って過去のノスタルジーを表現するとかくらいだけど、本作では現在パートが白黒で、過去パートがカラフルである。
でもこの過去のカラフルさもなんだか昔のフィルム映像のようなちょっと粗い質感というか、ノスタルジックな印象を受けました。
最後まで観てわかったことだけど、どうやら古びたアパートに住む男・伊関は「栩谷の妄想」であり、彼が亡くなった元カノ・祥子への想いを脚本にしたというのがオチであった。
つまり栩谷は過去の祥子に対しての扱いを悔いており、すでに感情が死んでいる世界として白黒表現となっている。
リンリンに対して「一緒に死のう」というセリフからも彼はもはや生きるしかばね状態である。
だからこそ、ラストの涙が効く。
あれは再生ではなく、「もう戻れない」と理解した瞬間の涙だからだ。
セックスに愛は邪魔
ピンク映画が題材だけどさほど本作はエロくない。むしろ逆で性描写がやたらと乾いている感覚を受けました。
まぁまぁクズ2人の男の話を淡々と見せられてるけどこれが意外と観れてしまうから不思議。
この映画の中でのセックスは、「欲望」ではなく「関係性の歪み」を映すものになっているからだ。
栩谷も伊関も祥子と関係を持つが、二人とも彼女と真正面から向き合おうとしない。
子供ができたと言っては責任を取らず逃げる栩谷。女優を志す祥子の気持ちをないがしろにする伊関。
結果として彼らのセックスはただの行為に落ちており、そこに愛は乗らない。
身体は重なっているが心は完全にズレている。
だからこの映画、ピンク映画の裏側を描いているようでいて、実際は愛の不在を描いているわけだ。
ちなみに本作は喘ぎ声がやたらと大きくて深夜に観てたらちょっとボリュームを考えないとAV観てると疑われるのでご注意を。
謎に魅力的
しかしただ喋ってるだけの映画なのになぜこうも観れてしまうのか。最初は喧嘩が始まるのかと思いきや、徐々に栩谷と伊関は打ち解けあう。このテンポと流れが実にいいんです。
二人の会話のトーンは基本的に低くて、現在パートになると部屋で飲む缶ビールの数が増えている。それだけ話に没頭して二人の距離が縮まっているという表現も好きなテイストでした。あと缶ビールが旨そうだ。
そして韓国BARでのマッコリを飲みながらのホッケやキムチなど、白黒映像なのにやたらと魅力的に映っている。
そもそも昭和を感じさせるノスタルジックな映像を意識してるのかな。意図的なのかわからないけど葬式の主演者は棒読みだったりするし。
白黒だけど設定は2020年代で見せ方としてはなかなか興味深い。
ラストシーンの白いワンピースを着た祥子がゆっくりとアパートに入ってきて部屋に入るシーンなんかも、転調ばかりが目立つ現代作品とは思えないほどスローです。
だけどこの時間で、栩谷の驚く表情や戸惑い、過去の祥子への懺悔のような感情がちゃんと表現されているのが凄いと感じました。
結局は本作は、愛を問う作品であると同時に一人の男の後悔の話であり、どこか太宰治的なニュアンスも含んだもの。
だいぶ人を選ぶ作品なのは間違いなさそうだけど、今の映画にはない質感があり個性的な作品に仕上がっていると思います。
あ、ちなみに祥子演じるさとう ほなみは伊関役の柄本佑の弟の柄本時生と再婚してますね。こういうつながりもあったのか。
受賞歴
・第33回日本映画プロフェッショナル大賞
・作品賞
・監督賞(荒井晴彦)
・新進女優賞(さとうほなみ)




