2023年に公開された映画『アンダーカレント』。
鑑賞してみてなんだか着地と全然違った印象。
本記事ではネタバレ全開で感想考察レビューしていきます。
基本情報
- 作品名:アンダーカレント
- 公開年:2023年
- 監督:今泉力哉
- 脚本:澤井香織、今泉力哉
- 音楽:—
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 上映時間:143分
- 製作国:日本
- 主なキャスト:真木よう子/井浦新/リリー・フランキー/永山瑛太 ほか
あらすじ

家業の銭湯を継いだかなえは、夫・悟と穏やかな日々を送っていた。だがある日、悟が突然失踪。途方に暮れながらも銭湯を再開しようとする彼女のもとへ、組合の紹介だという男・堀が現れ、住み込みで働くことになる。さらに、友人に紹介された探偵・山崎とともに悟の行方を追うが、銭湯という「日常の中心」に、説明できない違和感が溜まっていく——。
夫が消えた妻の淡々とした日常
夫が突然消えるという設定を聞くとどうしても思い出すのは『ゴーン・ガール』のようなミステリー作品だ。
夫婦の裏側にある秘密、嘘、心理戦。そういうドラマチックな事件の真相を追いかける物語なのかなと思っていたら着地は全然違いましたね。
この映画は夫の失踪の理由を追いかけてスリリングに物語を転がすような作りはせず、むしろ真逆で、「残された側の日常」を静かに見つめる映画になっている。
舞台は町の銭湯「月乃湯」。
主人公・かなえは父からこの銭湯を継ぎ、夫の悟と二人で切り盛りしていたがある日、悟は突然姿を消してしまう。
テーマは面白くなりそうなのになんだか映画は意外なほど淡々としている。
かなえは呆然としながらも、銭湯を閉めるわけにはいかないので、いつものように風呂を沸かし、番台に座って営業を続ける。
まぁ、人生ってそういうものだ。
どれだけ大きな出来事があっても、日常は止まらない。
そしてこの映画のリアリティを強く感じさせるのが、主演の真木よう子だ。
風呂のシーンではほぼスッピンに近い。肌の質感も、体つきも完全に中年の身体。少し重くなった肉付き、疲れの残る表情。だけどそれが妙にリアルで、人が歳をとることを感じさせる。
まさにつくられた女優としてよりも、生活の中にいる一人の女性としてそこにいるかのような生々しいさがある。
『パッチギ』や『ゆれる』の若々しいイメージで見ると余計そう感じますね。
まぁ、自分だってその分歳取ってるんですが。
堀という男との距離感
そこで現れるのが堀という男。
寡黙で影があり必要以上に自分のことを語らない。
かなえ側の心的距離はだんだん近くなるこの感じ、
ああ、やがて異性として意識するようになる。映画やドラマでよく見る構図かな。
そんなことを思ったけどまたもや思った方向と違う方に進む。
堀はかなえに迫らないし、恋愛的な空気もほとんど生まれない。ただ静かにそこにいるだけだ。
なんなんだろう?確かに堀は色々過去があってここにきてるんだろうけど悪い奴でもなさそうだし、この距離を保ったまま物語は淡々と進んでいく。
この関係はなんなんだ?同じ銭湯で働く中年の男女。何かを期待してしまう・・・
そう、本作はこの「二人の距離感」こそが最大の魅力なのかもしれない。
映画のオチ
かなえは友人の紹介で探偵・山崎に夫の捜索を依頼する。ここで少しだけミステリーの気配が出てくるがそれも派手には展開しない。山崎は悟について質問を重ねるうち、あることに気づく。
かなえは夫のことをほとんど知らないのだ。
優しい人だった。
穏やかな人だった。
怒らない人だった。
しかし具体的な過去を聞かれると、答えられない。
この違和感はやがて明らかになる。悟は幼い頃から嘘をつく癖があり、人生のあちこちで嘘を重ねて生きてきた人物だったのだ。
なんじゃそりゃ・・・
しかしよく考えるとこの映画のテーマに合っている。
人は必ずしも、自分の過去を正直に語って生きているわけではないわけで、むしろ多くの人が多少の嘘やごまかしを抱えながら生きている。
そしてもう一つ、この映画の重要な軸になるのがかなえの過去。
銭湯の常連客の娘が行方不明になる事件をきっかけに、かなえは子どもの頃の記憶を思い出す。
親友だった少女・さなえ。二人は双子のように仲が良かった。
しかしある日かなえは不審者に襲われてしまい、助けを求めて叫んだその瞬間、今度はさなえが捕まり、溺死させられてしまう。
つまりかなえは「自分の代わりに友達が死んだ」という罪悪感を抱えたまま生きてきたのだ。
ここでタイトルの意味がはっきりしてくる。
「アンダーカレント」、つまり「潜流」。
海の表面からは見えない、深い流れ。
人の心にも同じものがある。
外からは見えない悲しみ、罪悪感、後悔。そうしたものが心の奥底で流れ続けている。
かなえだけではなく、堀にもまた、妹を失った過去がある。
つまりこの映画は、消えた夫の謎を追う話ではなく、それぞれが抱えている見えない流れを描く物語なのだ。
ラストシーン
人を理解するとは何か?
一緒に暮らしていても、心の奥までは分からない。
堀はかなえに自分の正体を打ち明ける。
最後のシーンでは二人は距離を取って同じ方向に歩いていくシーンで幕を閉じる。
過去の傷が消えるわけでもないし、心の奥底に潜流を抱えながらそれでも人は生きていく。
別に堀はかなえを責めてるわけでもない。かと言って妹に激似というかなえに対して堀がこれから先、かなえに対して恋愛感情が芽生えるとも思えない。
静かに過去を抱えてこれからも生きていく。そんなラストシーンでしたね。
特に劇的なラストでもないし、この映画は最初から最後まで自分の想像していた展開とは異なる方向に行っていきました。





