「アイリッシュマン」は、一般的なマフィア映画を期待して観ると肩透かしを食らう。
銃撃戦は少なく、カタルシスもほとんどない。
あるのは、老いと沈黙、そして後悔だ。
スコセッシは本作で、これまで自らが描いてきたマフィア映画を内側から解体している。
「グッドフェローズ」や「カジノ」が上昇と転落の物語だったとすれば、本作は転落後の人生をどう生きるかを描いた傑作だ。
本稿ではネタバレ全開で感想を述べていくとする。
基本情報
作品名:アイリッシュマン(原題:The Irishman)
公開:2019年(アメリカ)
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:チャールズ・ブラント「アイリッシュマン」
音楽:ロビー・ロバートソン
ジャンル:クライム/ドラマ
上映時間:209分
製作国:アメリカ
◆ 主なキャスト
ロバート・デ・ニーロ:フランク・シーラン
アル・パチーノ:ジミー・ホッファ
ジョー・ペシ:ラッセル・ブファリーノ
ハーヴェイ・カイテル:アンジェロ・ブルーノ
ほか
あらすじ

物語は、老人ホームで車椅子に座る一人の男、フランク・シーランの回想から始まる。
かつて彼は、裏社会で「アイリッシュマン」と呼ばれたヒットマンだった。第二次世界大戦帰還後、トラック運転手として働いていたフランクは、ペンシルベニア・マフィアの重鎮ラッセル・ブファリーノと出会い、次第に裏社会へと足を踏み入れていく。
やがて彼は、全米トラック運転組合のカリスマ的リーダー、ジミー・ホッファの右腕として行動を共にするようになる。マフィア、労働組合、政治権力が複雑に絡み合う1950〜70年代のアメリカ。
忠誠を尽くすべき相手が増えるほど、フランクは「選択」を迫られていく。
そしてその選択は、やがて彼の人生に取り返しのつかない喪失をもたらすことになる。
淡々としてるのになぜか観れてしまうスコセッシ映画の真骨頂
Netflixのオリジナル映画。
凄いよね、Netflix。
劇場で公開されたものがすぐにNetflixでも配信とはこのご時世有り難い。
「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」に大ハマりした私としてはマーティン・スコセッシ監督の新作を見逃すわけにはいかない。
ということで視聴し始めたわけだけど、この映画なんと3時間半もある。
流石にちょっと躊躇する長さだけどいざ観始めるとこれが案外気にならず結構観れてしまう。
まず出てる俳優がマフィア映画好きとしては激アツで主人公にロバート・デ・ニーロ、マフィアのボスがジョー・ペシ、さらにジミー・ホッファ役にアル・パチーノとか豪華すぎるでしょ。
ジョー・ペシは「ホームアローン」でマコーレ・カルキンにボロクソにやられる泥棒役で有名だけどかなり歳取ってて渋くなってた。
(背は相変わらず小さいけど)
内容は歳とったデ・ニーロが過去にマファアの右腕として色々悪さをした回顧録。
淡々とはしてるんだけど相変わらず小気味好いテンポ感は観ていて心地いい。
というか単純にスコセッシ監督の作る映像とウマが合うのでどんな作品を観てても苦ではないのか。
老いた名優たちが魅力的過ぎる
何と言ってもディエイジング技術によって76歳のデ・ニーロがこの映画では40代、50代まで若返っていてそれが違和感のないこと。
これは本当に凄くて昔なら「明らかにメイクだろ」っていうのがバレバレだったんだけどめちゃめちゃリアルです。
この感じで「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか観たかったな。
気になったのがデ・ニーロは殺し屋なんだけどイマイチ暴力にキレがなく迫力がない。
まぁ実際は70代のデ・ニーロが演じてるから仕方ないけどえらくショボい殺し屋だなと思ってしまった。
内容は事実に基づいて作られているので特に言うことはないです。
あぁ、そうなんだ。くらい。
ジミー・ホッファの死因は実際には不明とされてるけどこの映画ではデ・ニーロが殺したことになってる。
アルパチーノ演じるジミー・ホッファはキレまくっててインパクトあります。
労働組合のカリスマ的存在だったホッファはなにかとマフィアとの噂が絶えない人物だったそうでケネディ暗殺にも関わっていたとかいないとか。
別の作品でホッファをジャック・ニコルソンが演じてるのでそちらも観てみようかな。
ラストの終わり方はさっぱりとしていて好きです。
今までの汚れた人生とは対極の存在である神父さんとの会話でデ・ニーロが神父さんに「ドアは閉めるな、少し開けといて」とお願いするシーン。
なんか色々と深いです。
全体的に登場人物も多くマファア事情を少しでもかじってないと混乱するかもしれない。
そのための何度も観れるNetflixは有り難いし実際何度も観れる映画となっている。
お時間ある人は夜に落ち着いてご覧ください。
しかしこの映画に出てくる役者はなんてカッコいいお爺ちゃん達なんだろう。
自分もこういう風に歳を取りたいものだ。
受賞・評価
『アイリッシュマン』は、主要映画賞レースで高く評価されたものの、受賞よりも「ノミネートの多さ」が際立った作品として知られている。
- 第92回アカデミー賞:作品賞ほか計10部門ノミネート(受賞なし)
- ゴールデングローブ賞:作品賞(ドラマ部門)ほか5部門ノミネート
- BAFTA(英国アカデミー賞):9部門ノミネート
- 全米映画批評家協会賞:助演男優賞(ジョー・ペシ)受賞
- ニューヨーク映画批評家協会賞:助演男優賞(ジョー・ペシ)受賞
派手な受賞歴こそ少ないが、「スコセッシ、デ・ニーロ、ペシ、パチーノによるマフィア映画の総決算」として、批評家・映画史の文脈では極めて高い評価を受けている。






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