『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から12年後に踊るシリーズのスタッフが終結し、室井慎二の最後の生きざまを描いた、前編『室井慎次 敗れざる者』と、後編『室井慎次 生き続ける者』の二作。
率直に言って、最後まで観るとなかなかいい作品だったと思う。
理由は下記。本記事はネタバレ全開で考察・感想綴っていきます。
基本情報
室井慎次 敗れざる者
- 公開:2024年10月11日
- 英題:NOT DEFEATED
- 監督:本広克行
- 脚本:君塚良一
- 製作総指揮:臼井裕詞
- 製作:亀山千広、矢延隆生、小川泰、市川南
- 製作国:日本
- 位置づけ:
『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ映画
室井慎次を主人公とした劇場版2部作の前編
室井慎次 生き続ける者
- 公開:2024年11月15日
- 英題:STAY ALIVE
- 監督:本広克行
- 脚本:君塚良一
- 製作総指揮:臼井裕詞
- 製作:亀山千広、矢延隆生、小川泰、市川南
- 製作国:日本
- 位置づけ:
『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ映画
室井慎次を主人公とした劇場版2部作の後編
あらすじ(2作通し)

警察庁キャリアとして長年組織の中枢で戦ってきた室井慎次。
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から12年後――
彼は警察組織の第一線から退き、地方で静かな生活を送っていた。しかし、かつての事件と未解決の因縁、そして警察組織が抱え続けてきた歪みが、再び室井を現実へと引き戻す。
北の国から要素も
室井さんって絶妙にいままで私生活が見えてこなかった人物。前作の『容疑者 室井慎次』もそこまで素を出さないキャラクターだったしね。
でも本作では秋田で田舎暮らしをしていてめちゃくちゃ生活感を感じます。
家の造りとか、人情話なんかはなんだか『北の国から』の要素も盛りこんでるのかな(同じフジテレビだし)。
全体的にスローテンポで昔懐かしのキャラクターたちもちらほら出てくるんだけど、みんなちゃんと歳取ってます。当たり前だけど。
『踊る大捜査線』ってやっぱり劇場版2作目までが勢いがあって、その後の3作目の『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』や4作目の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』なんかは過去のテンションを引きづってはいるが、若干「ノリが古くて」観てる方とのギャップがある印象。
本作はそんな軽い笑いのノリは極限まで削られており、サイコパスの日向の娘や、事件にあった家族の子供たち、そして庭に埋められてる過去の事件がメインとなっている。
こすられ過ぎたキョンキョン
しかしさ、踊るシリーズって一体どれだけ日向真奈美擦るんだよ…
確かに劇場版の一作目でキョンキョン演じる日向真奈美が出てきた時はなかなかインパクトがありました。でもあれは『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』のレクター博士のパクリというかオマージュのようなキャラなんだけど。
あれで終わっておけばいいものを劇場版の3作目で再度、日向が出てきて、
あの時も「またかよ」みたいな気持ちになったけど、まさかの4回目って。
もやは踊るシリーズは半分は日向真奈美シリーズじゃん。
それに前編の『室井慎次 敗れざる者』で日向の娘が登場するんだけど、サイコパスの子供もまたサイコパスっぽい描き方がちょっと納得いかないんですよね。まぁ、それは後編の『室井慎次 生き続ける者』で「実は母親に洗脳されていた」と一応は回収されてはいるが、彼女は塀の中なのでさすがに洗脳は無理があるだろ。
とにかく日向さん、もうおなか一杯だよという感じ。また新作やるみたいだけど、また日向が出てきたらもう笑うかな。
「仏」と化した室井慎次の生きざま
本作では昔の仲間(青島)との約束を果たせず(偉くなれず)警察を辞めてしまった自分をずっと責めて秋田の田舎暮らしをする室井さんの物語。
彼はいままで事件の裏側には家族がいて、彼らも苦しんでいたということを警察当時は気づけなかったわけで、だからこそいまは事件関係者の家族(子供たち)と共に暮らしている。
さらに日向の娘も受け入れ生活を共にする。途中で日向の娘の日向杏が色々と狂気性をはらんでいることも知りながら室井さんは全てを受け入れる。
さらに小屋まで燃やされる始末。それでも彼は、
「むやみに人を疑ってはいけない」
「絶対間違った方向にはいかせない」
本来だったらさっさと日向杏を里親に出したいところを、「いたかったら、いろ」と全てを受け入れる仏様のようなキャラクターになっている。
間違った方向にいきそうになった彼女を、室井さんが優しくも正す親代わりとなるわけだ。他の2人の子供たちも然り、子供がいない(結婚すらしていない)設定なので、なんだかこれはこれで室井さんの新たな一面を見れた気がします。
ヤンキーに注意してぶん殴られた時も、
「私は君たちに勝てない。お菓子を棚に戻そう。」と言うだけ。
そして、何も言わずに小沢仁志と飯島直子の息子を探してやる室井さん。
彼はいままのやり方ではなく、自分なりのやり方で色んな人に向き合う。そしてそれに触発された人たちは少しづつ変わっていくという話で、特に日向杏も最後にはちゃんと正しい道に進むようになって良かった。
だから本作って、実は殺人の話は主ではなくて、室井慎次の最後の生きざまを描く物語なんだと最後まで観て感じました。
室井慎次の最期
しかし最後の最後に室井さんが大吹雪のなか飼ってた犬を探しに行ってそのままお亡くなりになるって結構思い切った展開でしたね。
「風呂、沸かしといてくれ」って笑顔で去っていったシーンは完全に布石でした。
けど室井さん、犬って規制本能あるから結構戻ってきたりするんだよ。こんな吹雪の中、広大な大地を探しに行くのはちょっと無謀というかなんというか・・・
新作やるようだけどもう出てこないのもさみしいなぁ。すみれさんも警察辞めたって設定だし、なんか新作はもう昔のテンションで観れないかな。
それでね、ファンサービスだろうけどエンディングロールの最後の最後にたっぷりと老け込んだ青島が秋田までやってくるんだけど、事件が発生したからなのか、線香に手を合わせることなく帰っていくシーン。
いや、わざわざ秋田まで来たんだから手ぐらい合わせるだろと思ってしまった。なんかあざといいらんシーンだったな。
室井慎次の温かい人間味
とにかく本2作はいままであまり見れなかった室井さんの温かい人間味に溢れている。
被害者の子供たちに対して、
「お前たちに出会って、心配したり、悩んだりが楽しい。」
そんなことを酔って言う。
そう、子育てって心配したり、悩んだりなんですよ。でもその経験こそが、楽しい。
なんというかこのセリフ、めちゃめちゃ響きました。
なんだろう、やっぱり『北の国から』の黒板五郎を彷彿とさせるんですよね。
彼は警察を辞めたわけだけど、まだ警察に残っている筧利夫や真矢ミキなどが室井さんと青島の目指した「現場の刑事とキャリアがタッグを組む」というイズムを継ぐ展開に。
室井さんの精神は色んな人に伝播して人々の行動を変えた。
大きい事件解決の物語ではなく、静かに、だけど室井慎次らしく幕を閉じた、踊るシリーズではなかなかの良作だったのではないだろうか。







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