2024年に公開された映画『ミッシング』。
これ、映画としてはなかなか見応えのある作品だったしメッセージ性も強め。ただし、子を持つ親としては強烈に地獄のような映画である。
本記事ではネタバレ全開で感想考察レビューしていきます。
基本情報
作品名:ミッシング
公開年:2024年
監督:吉田恵輔
脚本:吉田恵輔
音楽:世武裕子
ジャンル:社会派ドラマ
上映時間:119分
製作国:日本
主なキャスト:石原さとみ、青木崇高、森優作、有田麗未、小野花梨
あらすじ

ある日、街で幼女失踪事件が発生する。母親・沙織里は必死に娘を探すが、有力な手がかりは見つからないまま3か月が経過。世間の関心が薄れていく中、夫との間には温度差が生まれ、家庭も次第に崩れていく。
唯一、地元テレビ局の記者だけが誠実に寄り添うが、やがて沙織里が娘の失踪当日にアイドルのライブに行っていた事実がSNSで拡散される。世論は一気に反転し、彼女は「育児放棄の母」として激しいバッシングの対象に。被害者家族であるはずの母親は、いつしか“疑われる存在”へと追い込まれていく。
未解決事件
ミッシング。もうあらすじ通りのまぁまぁ夢も希望もない話で、あるとき女子小学生が行方不明になり懸命に捜索する夫婦の物語。
世の中の事件って当然全てが解決するわけではないわけです。
本作が公開された2024年(令和6年)の刑法犯検挙率(警察が事件を認知し、犯人を特定して逮捕・書類送検すること)は38.9%だそうだ。
もちろん殺人や凶悪犯罪はさらに検挙率は高い。ここは誤解のないように。だが世の中では思った以上に未解決の事件は多いのも事実。というかむしろしっかりと解決した事件の方が少ないって恐ろしいですよね。
だから本作は決してフィクションとは捉える事はできないほど非常にリアルな印象を受けました。実際にテレビでも行方がわからなくなった話は度々聞こえてくるのだから。
娘や息子がいる人が観たらとてもとても人ごとだとは思えない話だ。だから本作はお子さんがいる人とそうではない人が観るのとでは少し気持ちの入り方が当然変わってくると思われる。
地獄はこの世にある
毎日忙しい家事のなか、せめてもの気分転換と娘を弟に預けてアイドルのライブへ出かけたその日に娘はいなくなってしまう。
ライブに出かけた自分を責めながらビラを配り毎日娘が戻ることを願う夫婦。
わずかな情報で一縷の望みにかけたい沙織里と情報の信用性を疑う一歩引いた夫との口論もリアルだ。
娘の目撃情報を語る悪意のある人たちに苦しめられている姿は正直観ていられない気持ちになった。
もちろん冷静でいられない沙織里も理解できるし、捜索には時間やお金がかかるのも事実だ。夫を演じる青木崇高の男泣きは素晴らしい演技だった。
さらに追い打ちをかけるようにその間、夫婦はSNSでの誹謗中傷によってさらに傷つけられることになる。
本人たちは苦しんでるのにさらに苦しまないといけないSNSってなんなんでしょうね。これは実際に『テラスハウス』の炎上きっかけでSNSでの誹謗中傷で自殺された木村花さんを思い浮かべました。
この誹謗中傷してた人は結果的に捕まって一安心。
簡単に世界って地獄になるんだ。
おまけにテレビ局の連中は報道まるで人ごとで、全く当事者に寄り添う気がない。唯一、中村倫也だけが向き合おうとしている。
印象としては妙に学生っぽいというか、サークルのノリ。彼らは半分面白がって取材しているようにしか見えない。ちょいとデフォルメが過ぎるが、少なくとも対岸の火事的な心理って当事者じゃないとあるというのを表現したかったんでしょう。
取材中の「虎舞竜」のロードのくだりとか、観ていて不愉快レベルでした。
石原さとみの熱演が光る
石原さとみはなんとなくコミカルな役だったり漫画原作のデフォルメされたキャラクターを演じてるイメージだったが、本作ではかなり熱演しており、僕の中で株が急上昇。
善意の皮を被った悪意にすがり、それらに裏切られる度に鼻水垂らしながら怒りと悲しみが入り混じって泣き叫ぶ演技はこれまでの石原さとみのイメージをぶち壊している。
ある時、娘がいなくなったのと類似する誘拐事件が発生。
もしかしたら自分の娘も同じところに監禁されてるいるのではないか。
母親がそう考えるのは自然であるが、実際は関係がなく・・・。
中村倫也演じる記者は、
「今のところ報道部でも娘さんの件とは直接関係はないと考えてます。
・・・けど、可能性は0ではないと思います。」
と沙織里に希望を与えるセリフに優しさを感じました。
「そうですよね、0ではないですよね」。
噛みしめるように、わずかの可能性も捨てたくない沙織里。だって捨ててしまえば諦めたことになってしまうからだ。
この沙織里の、藁をも掴む気持ちを石原さとみが非常に巧みに表現されてました。
ラストは。
地獄のようなこの世界で、救いがあったのは、そのなかでも「捜索に協力したい」と言ってくれる人の存在。
捜索に協力したいって言ってくれる人の中に誹謗中傷をしてる人がいなくてとりあえずよかった。
旦那は誹謗中傷した人間を刑事事件で告訴し、沙織里は子供達のために小学生の登下校を見守ろうと学童擁護員のパートを始め、少しづつ彼は前に進んでいく。
が、結果から言えば映画の中で結局娘は戻ってくることはなかった。
だからモヤモヤする人は事件解決や答えを求めてるんだろうが、これは事件解決の物語ではない。
人間の善意と悪意が浮き彫りにされる話だ。
ラストはひたすら陽の光が美しく、喪失感との対比が見事。
家の中に入る陽によって虹ができたのは、いったんは灰色になってしまった沙織里の世界に「色」が戻ってきたことを表現しています。
悪意だらけのこの世界でこんなにも美しいものがあるんだ。だからラストはとびっきり陽の光の美しさが協調されてました。
登校する女の子を自分の娘にかぶせて観る沙織里。だが沙織里は泣かない。区切りがついたわけではないが、「いったんは前を向いていこう」と決めたような表情で映画は幕を閉じる。
本作のラストで安易に娘が戻ってこないのがまたリアルだと思いました。メディアが発達してしまったこの現代で、少なくとも被害者なのにSNSによる誹謗中傷など受ける事態って世の中けっこうあると思っていて、そういう意味も含めて本作はなんだかドキュメンタリー映画を観てるようなそんな印象を受けました。
評価・受賞歴
『ミッシング』は2024年の映画賞シーズンで高い評価を受けた。
・第49回報知映画賞 主演女優賞(石原さとみ)
・第48回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞
・第34回日本映画批評家大賞 助演男優賞(森優作)
・Filmarks Awards 2024 国内映画部門 優秀賞
・第67回ブルーリボン賞 主演女優賞ノミネート
特に石原さとみの演技は「キャリア最高到達点」と評され、母親の絶望、怒り、無力感を圧倒的なリアリティで体現した点が評価された。
本作は単なる失踪ミステリーではない。
“情報が人を殺す”時代の、静かで重い警鐘である。






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