女優の竹内結子さんが亡くなったその日、半沢直樹の最終回が放送された。
「生きていれば何とかなる」
妻役の花ちゃんの半沢直樹に対する言葉が我々の胸に突き刺さった。
白井大臣の盆栽をぶん投げての「クタバレ」、半沢の辞表を破り紙吹雪の中颯爽と去っていく大和田の「あばよ!」
特に最終回は数え上げたらきりがないほど強烈なセリフのラッシュ。
そして箕部幹事長を追い詰める圧倒的なラスト。
前作と全く遜色のないほどのカタルシスをまさか続編で感じさせてくれるとは思わなかった。
視聴率は毎週20%超え。
最終回に至っては32.7%という、怪物ドラマ。
今回は、社会現象になった怒涛の1000倍返しの裏側、その濃すぎるキャラクター、そして「なぜ人は半沢直樹に熱狂するのか」まで徹底的にネタバレで考察していく。
基本情報
- 放送:2020年(TBS日曜劇場)
- 主演:堺雅人(半沢直樹)
- 出演:香川照之、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、古田新太、江口のりこ、市川猿之助、北大路欣也 ほか
- 原作:池井戸潤「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」
- 構成:全10話
- ジャンル:企業サスペンス/ヒューマンドラマ
あらすじ

東京中央銀行から子会社の「東京セントラル証券」へ出向していた半沢直樹。
そこへ巨大買収案件が舞い込み、背後では銀行内の派閥、政治家、そして航空会社再建を巡る国家的利権が動き始める。表と裏が入り混じる権力闘争の中で、
半沢は相変わらず「やられたら倍返し」を貫き通し、
最終的には“1000倍返し”で巨悪を叩き伏せる——。
作品に魂が宿った
私は原作が好きで「ロスジェネの逆襲」までは楽しく読めたが実は四作目の「銀翼のイカロス」で規模が大きくなりすぎてしまって少し冷めてしまった思いがある。
今作はそんな「ロスジェネの逆襲」と「銀翼のイカロス」をドラマ化したものだが果たして後半の巻き返しがどうなるかやや不安であった。
規模が大きくなればなるほど物語に無理が生じてくるしそれだけ説得材料がいる。
だけど結果それは杞憂におわった。
役者の迫真の演技、アドリブ力、製作陣の大胆な原作からのアレンジがより良い方へ転がり、まるで作品に魂が宿ったような感覚だ。
まさか原作より面白くなるとは誰が予想しただろう?
視聴者は半沢直樹が最後に勝つ事は知っているし、「このドラマがバッドエンドで終わるはずがない」のもわかっている。
原作もので大枠が決まっていながらもそれをいい塩梅で崩し作り変える脚本家達の仕事に感服しかない。
SNSの健全な使い方がドラマを盛り上げた
たしかに多少の無理があるしツッコミどころは満載だ。
かくなる私も当初はこの半沢直樹第二期の一回目の放送を観て「コンプラが厳しいこの時代にそぐわない設定」や「役者の過剰演技」など否定的なツイートをしてしまったが、
途中から「そんなものはわかりきった上で作ってます」みたいな完全に開き直りともとれる内容に己のTweetのナンセンスさを認識した。
これだけ作品に魂が宿り回を追うごとに熱量が増していった要因はSNSの存在が大きい。
思えば毎回Twitterをのぞけば物凄い数のひとたちが感想をつぶやいてるし、放送翌日には必ずYahoo!ニュースの記事になっている。
というか放送期間中は毎日何かしらの半沢直樹に関する記事がニュースになるという異例の事態。
(観てない人からすればウザかっただろうな)
似たような記事も多く見られるがそれでもコメント欄を観れば視聴者の熱い想いが綴られており、さらに驚いたことにこのドラマに関して否定的な文章がほぼ見当たらない。
番組を観ている国民が一丸となって半沢直樹を応援する。
SNSにまつわる暗いニュースが蔓延するこの時代になんて前向きなSNSの使い方だろうか。
その勢いがプラスとなり役者の目も回を追うごとにどんどん勢い付いていき、完全に役と同化していった。
物語の時代設定は古くとも、SNSといういまの時代に完全にハマった奇跡的な作品と言えよう。
次の放送までの一週間を心待ちにして各々あれこれと考察する。
録画して一気見するよりも長い間作品に浸ることができたという事を考えると本来のテレビのあり方みたいなことを考える。
すぐにネット配信しなかったのも巧みな戦略だ。決して見逃しは許されない。
録画機能が便利になりリアルタイムでテレビを観ることが古いとされる昨今、毎週欠かさず時間になればテレビの前にいる。
これがどれほど凄いことか。
半沢直樹2はなぜここまで面白いのか?
一つ目はもはや役者たちによる舞台劇レベルの濃すぎる芝居。
顔芸の王・香川照之、圧倒的存在感の市川猿之助というもはや個性の殴り合い。
ここまで濃い演技を真剣にやってのけるドラマは世界でも稀。外国人どう思うんだろう。
半沢直樹2は、もはやTBSが誇る歌舞伎コラボドラマと言ってもいい。
そして二つ目は「正義」が圧倒的にわかりやすいということ。
話の内容は少々小難しくても、物語の核となるものはかなりの大味なのでシンプルにわかりやすい。
悪役が悪すぎる。そして半沢が正しすぎる。
視聴者は誰もが「こいつだけは許せない!」と思う敵が生まれ、ラストでその悪が完璧に成敗される。
この「因果応報の爽快感」こそ、半沢直樹の本質だ。
三つ目は1000倍返しという「マンガ的誇張」。
前作は「倍返しだ!」だった。しかし続編では「100倍返し」、さらに最終回では「1000倍返し」。
数字が増えたところで何が違うのかは正直わからない。
だが視聴者はこの誇張にスカッとする。
半沢直樹は、リアリティではなく「興奮」を提供してくれるドラマだからだ。
半沢直樹は「会社員への救済ドラマ」である
現実世界には「正しいことを言っても通らない」「上司が理不尽」。
そんな場面は山ほどある。
だからこそ、ドラマの中だけでもこんなセリフを聞きたいのだ。
「やられたらやり返す。倍返しだ!」
ここに共感しない社会人などいない。
半沢直樹は、働くすべての人への応援歌であり、ストレス社会を生きる現代人の心のガス抜き装置でもある。
と、だいぶアツイ感想になってしまったが観てない人は色眼鏡をつけずに是非観て欲しい。





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