2018年公開の映画『ファースト・マン』。
デイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが『ラ・ラ・ランド』以降再タッグを組んだ話題作。
本記事ではネタバレ全開で感想考察レビューしていきます。
基本情報
- 作品名:ファースト・マン
- 公開年:2018年
- 監督:デイミアン・チャゼル
- 脚本:ジョシュ・シンガー
- 原作:ジェームズ・R・ハンセン
- 音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
- ジャンル:ドラマ/伝記/歴史
- 上映時間:141分
- 製作国:アメリカ合衆国
- 主なキャスト:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク
あらすじ

空軍でテストパイロットを務めるニール・アームストロング(ライアン・ゴズリング)は、仕事に集中できずにいた。まだ幼い娘のカレンが、重い病と闘っているのだ。妻のジャネット(クレア・フォイ)と懸命に看病するが、ニールの願いもかなわずカレンは逝ってしまう。いつも感情を表に出さないニールは妻の前でも涙一つ見せなかったが、一人になるとこらえ切れずむせび泣く。悲しみから逃れるように、ニールはNASAのジェミニ計画の宇宙飛行士に応募する。
再びデイミアン・チャゼル × ライアン・ゴズリングのタッグ
『セッション』と『ラ・ラ・ランド』が大好きで次回作は絶対映画館で観たいと思っていたデイミアン・チャゼル監督の「ファースト・マン」を劇場で観てきました。
今回も前作に引き続きライアン・ゴズリングが主演しております。
「ジャズドラム」「ミュージカル」ときて今回は「月面着陸のニールアームストロングの話」。
現代の若者もなんとなく知ってるあの偉業を果たした人物を映画化するとはデイミアン・チャゼル監督にしては「裏の裏は表」みたいなストレートな挑戦だこと。
さて、この月面着陸というテーマに対してデイミアン・チャゼル監督がどう料理していくのか楽しみで映画館で観てきたんだけど思った通り直球でありながらデイミアン・チャゼル節炸裂。
本日はネタバレありの感想を。
これからご覧になる方はここからは鑑賞後に見に来てくださいネ。
アームストロングの人物像
私たちの多くはアームストロング船長のことを「アポロ11号にのって人類ではじめて月面着陸に成功した人」といった認識でしかない。
そう、よっぽど月面着陸に興味がある人でない限り教科書に載ってるこの一文でしか彼を知らないのである。
監督のデイミアン・チャゼルは「アポロ11号が月面着陸した話の映画はたくさんあるが、そこに至るまでの人間ドラマを深く掘り下げたかった。」ようで、
今回は単なるSF映画ではなく、むしろ「濃密な人間ドラマ」がメインで描かれている点においても新しい試みと言えよう。
ということで、この映画ではアームストロング船長(今後はライアン・ゴズリングと呼ぶ)の人物像をデイミアン・チャゼル監督目線のデフォルメありきで細かく描かれている。
それは冒頭の娘が亡くなってしまうシーンが特に印象的で実はこの出来事が本作の大きな柱となっている。
娘を亡くしてから常にライアン・ゴズリングはどこかで娘を追っており、「その想い」こそが後に彼を月にまで到達させることとなる。
仲間の葬式時にでも、娘が使っていたブランコを見た時もライアン・ゴズリングは必ずと言っていいほど娘の事を思い出す。
心のどこかにずーっと娘の存在がある。
面接の時にも「娘の事がこの任務に影響するか?」という質問に対し、「影響しないことはない」とハッキリ答えるライアン・ゴズリングにとても人間味を感じた。
この様な「アームストロングの父親像」は映画として監督が多少デフォルメしてるにせよ娘がいる私にとってはめちゃめちゃ感情移入する要素だった。
この人物像を掘り下げることでより物語に重厚感をもたらすことになる。
あえてセリフで説明しない
ラストの月に降り立つシーンであの「人類にとっては」というセリフ以外にライアン・ゴズリングのセリフはほぼない。
広大な月に立つライアン・ゴズリング。
宇宙服を着ているのでここでは表情がわからない。
そこで娘や家族と一緒にいた頃の記憶がフラッシュバックする。
娘がまだ生きていたころに一緒にピクニックに行ったたわいもない思い出。
セリフはなく映像のみ。
ここで観客は彼が命の危険を冒してまで月にやってきた想いを想像されられることになる。
とても胸が締め付けられるシーンだ。
彼はここでようやく娘に対する想いに一区切りつけることができた。
そしてラストの月面着陸成功後に妻との再会のシーンもセリフはない。
ガラス越しに顔を近づけ見つめ合う2人。
エンドロール。
うわ、なんて潔いラストだろう。
ハリウッド映画によくありがちな下品なブチューでエンディングではない。
壮絶な体験をしてきたライアン・ゴズリングと子供2人を残して死ぬかもしれない夫を待つ妻の想いがお互いの表情に表れており思わず引き込まれるシーンでした。
なによりここででも観客は「2人の想い」を想像することになる。
言葉はいらない。
実はこの「セリフで説明しない手法」はデイミアン・チャゼル監督の作品では結構お馴染み。
観客に想像させる余白を与えてくれる。
私はこういう演出こそがデイミアン・チャゼル監督作品の魅力の一つだと思う。
言葉で全部説明するよりも表情一つの方が多くのことを語っている気がするのだ。
体感型映画
これまで「人間ドラマに焦点を当てた映画」と説明したがこの映画のもう一つの魅力はトラウマ級の宇宙恐怖体験。
オープニングの飛行機が墜落するシーンなんて心拍数上がりっぱなしで観ていて苦しくなってくる。
「手汗握る迫力のシーン」と一言で言うとありきたりだけど飛行機が墜落する恐怖を大音量と圧倒的映像で描いており観た後はどっと疲れるほど。
このオープニングで「なんちゅうもん観せてくれんだよ」と思ったのと同時にこの映画を観る覚悟を試されている様な気になった。
わかりました。生半可な気持ちで観てはいけないということを。
パイロットの訓練シーンも観てるこっちが三半規管やられて目が回りそうになる。
全員ゲロってたけど宇宙に行く為にみんなこれ経験してるのかと思うと恐ろしくなった。
アポロ11号が月面着陸するまで何度も失敗を積み重ねその度に物凄い迫力の映像を観客にみせつける。
この映画を観て私は絶対に月になんか行きたくないと思ってしまったくらい…
この映画は人間ドラマが主ではあるが同時に体感型映画でもあるのだ。
ただし手ブレが多いので二日酔いの時に観てはいけない。
まとめ
月面着陸を果たしたNASAを決して英雄扱いせずに「税金の無駄遣い」、「白人が月に行くから黒人は貧乏」と言った批判もちゃんと描いているのも単なる英雄映画にしてない点においても素晴らしい。
光があって影がある様に成功の裏にはこうした批判はつきものだと言うことをありのまま描いている。
一つ気になったのが娘に対しては愛情たっぷりのライアン・ゴズリングだけど息子2人に対しては割とドライな描き方なのはちょっと寂しい気がした。
「楽しかった」と手放しに言えるような軽い映画ではない。正直めちゃめちゃ疲れた。
五感を刺激されエンタメ性も存分にあるが「月面着陸」という偉業のための犠牲も多く常に「死」と隣り合わせという緊張感がそのまま映画を通して伝わってくる。
「どう?宇宙に行ってきたかのように疲れたでしょ?」とこれが監督の狙い通りなのかも。
前作は何度も観れるのにこの映画はしばらくはいいかな。
美味いんだけどかなり重くてしばらくはいいみたいな。
けれども個人的にはやっぱり監督とはウマが合うようだ。
評価・受賞歴
- 第91回アカデミー賞:視覚効果賞 受賞
- 同賞にて音響編集賞・音響録音賞・美術賞 ノミネート
- ヴェネツィア国際映画祭 ワールドプレミア上映
- 各国批評家からは「英雄神話を解体した伝記映画」として高評価





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