【映画】愛に乱暴|なぜ彼女は壊れていったのか?静かすぎる日本サスペンス【ネタバレ感想・考察】

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映画「愛に乱暴」 日常の静けさの中で不穏な違和感を抱える女性を描いた象徴的イメージ 人間ドラマ

2024年公開の『愛に乱暴』は、『悪人』『怒り』『楽園』『国宝』など、人間の心の暗部をえぐり出す作家、吉田修一の同名小説を森ガキ侑大監督が映画化した作品。

本記事も存分にネタバレ全開で感想考察レビューしていきます。




基本情報

  • 作品名:愛に乱暴
  • 公開年:2024年
  • 製作国:日本
  • 上映時間:105分
  • 監督・脚本:森ガキ侑大
  • 原作:吉田修一
  • 配給:東京テアトル
  • 劇場公開日:2024年8月30日




あらすじ

映画「愛に乱暴」 日常の静けさの中で不穏な違和感を抱える女性を描いた象徴的イメージ

結婚して8年になる桃子は、夫・真守とともに、義実家の敷地内に建つ離れで暮らしている。

表面上は穏やかで不自由のない日常。しかし、義母との微妙な距離感、夫の無関心とも言える態度、積み重なる些細な違和感が、少しずつ桃子の心を摩耗させていく。

近隣で起こる不穏な出来事、身の回りで続く小さな異変。

それらは決定的な事件ではないにもかかわらず、桃子の感情を確実に追い詰めていく。

やがて彼女の中で、抑え込まれていた怒りと不安が形を持ち始めたとき、

「丁寧で平穏な暮らし」は、暴力性を孕んだ別の顔を見せ始める。

本作は、大きな事件ではなく、日常そのものが人を壊していく過程を描いた静かなサスペンスである。




静かに徐々に壊れていく夫婦がリアル

『悪人』『怒り』『楽園』『国宝』など、人間の心の暗部をえぐり出す作家、吉田修一の同名小説を森ガキ侑大監督が映画化した作品。

主演はいまをときめく江口のりこ。めちゃめちゃ売れましたね。

彼女が演じる桃子はなんだか日々の家事に疲れてる感じも取れなくもないが、とは言え、石鹸教室の先生をしていたり、旦那に献身的であり、欲しかった高級メーカーのカップ&ソーサを入手したり、それなりには充実している、風である。

江口のりこの能面フェイスも日々の生活に疲れた主婦のリアルな表情を表しているような。失礼?

彼女は旦那のいるかいらないかわからない晩飯を作り、燃えるゴミの日なのにゴミ捨て場に捨てられてる缶を拾ったり、妊婦さんに席を譲ろうとしたり、几帳面で真面目な性格が伺える。

毎回声をかけている猫のぴーちゃんの姿が見えなくなり、コミ捨て場でボヤ騒ぎがあったり、徐々にささいな出来事が重なっていく。

それでも話は中盤までは淡々と過ぎていき、特に大きな展開もなく進んでいくが、旦那の真守が突然「彼女に会ってくんないかな。」というカミングアウトで物語は大きく変化していく。

なんと浮気相手に子供ができたようで、桃子も実は過去に真守との浮気で妊娠した過去があることがわかる。

しかし彼女の場合、結果的に流産してしまったわけで、この出来事が引き金となりここからさらに展開していくことになる。

物語としてはスローペースなのでわかりやすい展開が好きな人にはだいぶ退屈だろう。それでも静かに夫婦間が崩壊していく様子が凄くリアルに描かれている。




自己肯定感の低さ

しかし何故、桃子は頑なに真守と離婚したくないのだろう?

それはきっと自分自身を否定されてるような気になるからだろう。

かつて自分の腹にいた子供は流産し、「自分は女性としての役割を担っていないのではないか」という感情が読み取れる。

一方、真守も子供を本当に欲しがっているであろうシーンが、真守を尾行していった際にさりげなく挿入されている。

実家の兄弟?の子供たちとの食事シーンも彼女の境遇とのコントラスとして描き、どこか寂しげである。

さらにTwitterの投稿をちょくちょく見ているシーン。「最初は誰のツイート内容だろう?」もしかして真守の不倫相手の?と思ったら後に桃子自身の過去のツイート内容であることがわかる。

そもそも今が充実している人間はしょっちゅう過去のツイートなんか見ないわけで、彼女の自己肯定感が低さが読み取れる。

「いいね、選択肢があって」

真守の不倫相手に桃子が放つ言葉。

そして元職場の上司と会社で話している時に聞こえる会社員同士の「会社辞めてワーホリに行く」という話。

これらは全て「私はあなたたたちと違ってもう選択肢も、時間もあまり残されていない。」という心境を察することができる。

劇中で捨てられた猫はまさに桃子自身のメタファーでもあるのだ。




伏線回収が非常に巧み

実は本作、最初から最後まで実に細かい伏線の連続で、それはしっかり映画内で回収されます。

その一つ一つを回収していくと桃子の心情が理解できるようになるまるで「パズル」のような構成なのです。

だからサラッと流し観しても正直よくわからないんじゃないかな。

実家で自分の昔の服を捨てるシーンがあって、彼女が見返したTwitterの写真にその服が映っていたことであの投稿は過去の自分が投稿したものだったと言うことが繋がる。

冒頭の真守との食卓のシーンで「真守ってお礼言わないよね。」の一言もそうだ。

最後のホームセンターの中国人に「ありがとう。いつもゴミ捨て場を綺麗にしてくれて、ありがとう。」と言われ、そこで桃子は泣き崩れる。

「ありがとう。ありがとうって言ってくれて。」

そう、彼女は自分を認めてほしかったんだな。

子供のベビーソックスまで購入するくらい楽しみにしていた出産が流産で終わった過去があって、ずっと自分という存在に自信が持てないでいた。

だから真守から「別れてほしい」と言われたときに頑なまでにそれを拒んだ。もし言われた通りに別れてしまえばもう私には何も残されていないから。

というようにまるでパズルのように一つ一つのピーズがハマればハマるごとに彼女の気持ちが理解できるようになる展開で、これは非常に巧みだと思いました。




静かに迎えるエンディング

チェーンソーを購入したときはこれ、スプラッターもの?と思ったが、結果的にそんなことはありませんでした。

真守の母親から今まで桃子と真守が住んでいた「はなれ」を桃子がゆずり受けることになり、「やり直せるわ」と言われる。

「私には選択肢も時間ももうない」という伏線が真守の母親のセリフで少しけ回収されることになる。

桃子は静かに前を向いてアイスキャンディーを食べながら真守と暮らした「はなれ」が解体されていくのを眺めるシーンで物語は幕を閉じる。

「愛に乱暴」というこのタイトルは、まさに悪意のない空間にいることが逆に、お互いに乱暴になっていくことを描いた作品。

つまり悪意を表に出さない代わりに、隠した心のやましさを浮き彫りにした作品ということみたいです。実際、桃子や真守、真守の母親も家族の体は成しているものの本音を言わない偽りの関係である。

本作は何か大きな事件性があるわけでもないが、「これどうやって終わるんだろう?」と食いついてみてしまいました。

逆に大きなわかりやすい展開じゃないと満足できない人には物足りなさを感じることでしょう。それってまるで化学調味料を使った「旨味がわかりやすい料理」と一緒で、「読み解く力」が試される作品なのかもしれない。




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