狂気の男、村西とおる。
「エロは世界を救う」と豪語した伝説のAV監督を、山田孝之が体現したNetflixドラマ『全裸監督』。
2019年に配信されたシーズン1は、日本ドラマ史においてまさに革命だった。
昭和の性産業、昭和のアンダーグラウンド、そして欲望にまみれた男たちの物語。
「ここまで攻めた邦ドラマがNetflixから出るのか」と誰もが驚愕した。
そして2年後、2021年6月。
物語は「夢の終わり」へと進む。
バブル経済の絶頂と崩壊。名声を手にした男が、どう堕ちていくのか——。
本稿ではネタバレ全開で感想を述べていきます。
基本情報
作品名:全裸監督 シーズン2(The Naked Director Season 2)
配信日:2021年6月24日(Netflix全世界同時配信)
話数:全8話
ジャンル:実録ヒューマン/ドラマ/社会派
原作:本橋信宏『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)
監督:武正晴、河合勇人、内田英治
脚本:内田英治、仁志光佑、山田能龍
音楽:岩崎太整
制作会社:ROBOT
製作:Netflix
主なキャスト/役名(シーズン1〜2)
- 山田孝之:村西とおる(AV監督・主人公)
- 満島真之介:荒井トシ(村西の相棒)。※通称「トシ」
- 玉山鉄二:川田研二(編集者/のちにビジネスパートナー)
- 森田望智:黒木香(本名・佐原恵)。
- リリー・フランキー:武井道郎(警視庁の捜査官)
- 國村隼:古谷伊織(古谷組組長/ヤクザ)
- 柄本時生:三田村康介(サファイア映像スタッフ)
- 冨手麻妙:奈緒子(女優)。
- 伊藤沙莉:小瀬田順子(スタッフ)
- 石橋凌:池沢栄吾(AV大手「ポセイドン企画」社長)
- 恒松祐里:千葉ミユキ/乃木真梨子(シーズン2で重要役)
- 小雪:佐原加代(黒木香の母)
あらすじ

1980年代の日本。
バブル景気に沸く中、アダルトビデオという新しい時代の波を掴んだ村西とおるは、一代で帝国を築き上げた。しかし、頂点に立った男には“崩壊”が待っていた。
金、女、仲間、夢——そのすべてが、少しずつ彼の手から零れ落ちていく。夢のようなバブルの時代。
そこに漂うのは、煌びやかさよりもむしろ「虚無」。村西は“世界進出”を掲げ、アメリカ市場への進出を画策するが、
その先には破滅的な現実が待っていた。
本当お待たせさせられましたよ。
「全裸監督 シーズン2」。
率直な感想としてはここ最近観た映像作品で最も心が揺さぶられる内容であった。
特にラスト4話辺りから止まらない止まらない。
最終回だけは翌日にまわしシャキッとした頭でしっかり鑑賞。
語りたい事が山ほどあるのでぼちぼちはじめていきますか。
衛星事業が全てを変えた
まず今回の話の主軸になるのが衛生事業。
要は月額いくらかを登録者からとって映像配信するというもの。
これ、まさにいま現代の映像サービスでやってることやないですか。
それをNetflixのドラマで扱うってのが実に興味深い。
ただし西村とおるは先見の眼があり過ぎた為、20年前の人達にはいまいちひっかからなかった。
この事業に金を注ぎ込みまくったらあげく、凋落していく西村とおるが今回のシーズン2の肝。
シーズン1ってどちらかというと世の中にない革新的なものを村西組のみんなで作り上げていくワクワク感があったんだけど、今回は村西一人が暴走していってる感じ。
徐々に村西への不満が溜まり一人、また一人と去っていく。
これが観ていて辛かった。
だってシーズン1であんなにみんな和気あいあいと楽しそうだったのに。
落ちるところまで落ちていく村西とおる
順風満帆にいっていたように見えたが少しづつ黒木香と距離ができ始め、付き人のコムと経理の大場から金を持ち逃げされ、バブルがはじけ融資が受けられなくなる。
それでも衛生事業のためにキャストの裏ビデオを勝手に販売したことから三田村やラグビーからも愛想を尽かされ、完全に孤立してしまう村西はついにヤクザに金を借り返済できずに逃げ回るように。
もう観てるうちにどんどん村西が嫌いになっていきます。
山田孝之、嫌われ役見事です。
そんな中、前作の最後で村西の元を去り、ヤクザとなったトシが川田と再会し、また昔の仲間達と一緒にAVを作ることになる。
どんよりした空気感のシーズン2では少し和む展開。
もしかして村西も改心してここに混ざって一件落着になるといいな…
と期待したが結局この後の話はそんな生優しいものじゃなかった。
ヤクザ借金返済の為に黒木香のデビュー作のマスターを川田の事務所から盗もうとしたり、金を返済できず命からながらヤクザから逃げた為、今度はトシや川田の事務所にヤクザが現れめちゃくちゃにされてしまったり。
もうこの時点で仲間との復縁フラグは完全に途絶えることになる。
まさに最悪の展開。
それでも生きていく。
村西はめちゃめちゃ往生際が悪い上に、そのくせ生きることにはやたらポジティブ。
トシに拳銃向けられた時も小便を漏らしめちゃめちゃカッコ悪いくらいに泣き叫んで死にたくないとすがる。
ただし「カッコ悪い」が突き抜けると今度は「清々しく」なってくるから不思議だ。
突き抜けた最低な人間はこれはこれで興味深い。
もともとこう言う人間だったんだなと改めてシーズン1を見返したくなる。
「生きてれば全部正解だ」
村西のこのセリフからもどんな事があっても自分がやってきたことを肯定しようとするその姿には生命力を感じざるを得ない。
そんな村西は川田からトシの死を聞きここではじめて感情が爆発し涙を流す。
玉山鉄二演じる川田の存在がしっかりと他に足をついた作品にしている。
この人こんな重要な役だったんだ。
他にも三田村の淡い恋愛模様やラグビーとの友情など村西以外のキャストが前作よりも深掘りされているのもシーズン2の魅力である。
なによりも薬物で捕まったピエール瀧の出演が嬉しい。
「テレビ出禁だって?裏に手回すなよ」の本人が言うセリフもなんとも皮肉だ。
映画「凶悪」が大好きな私はピエール瀧とリリーフランキーが丸テーブルを囲むシーンに興奮を隠せなかった。
トシと西内まりやのロミオとジュリエットばりの禁断の逃避行は見ていてドキドキしたんだけど案外何もなく終わってしまってのが少し残念だったかな。
個人的にはこの二人のラブストーリーとか見てみたかったな。
山田孝之はもちろんのこと、本作でのスタッフやキャストの気合いがこちらまで伝わって来るようだ。
前作よりも確実にダウナーな作品なのは間違い無いが、綺麗事でなくさらに私利私欲に溺れた人間たちの内面をエグる内容となっている。
気になった点
細かいことだけど自殺未遂した黒木香が母親の小雪とタクシーにのって帰るシーンでシートベルトをしていないのが個人的には嬉しいポイントだった。
というのも昨今のテレビ業界ではスポンサー様や視聴者様を気にするあまり、緊迫するシーンなのにしっかりシートベルトを締めていたりと妙に白ける事が多かったからだ。
ピエール瀧も地上波なら使えないだろうしここにNetflixの強みを感じる。
と言うかこんな事をやられたらどう逆立ちしたって地上波のテレビはNetflixに勝てない。
あとは新宿のシーンで2回位でてきたチャリンコにのったピンク色の人の存在。
この人、私は実際に新宿でたまに見かけるんですけどご本人なのかな?この時代にもいたのかな?
誰も突っ込んでなくて凄く気になってます。
最後に女優みんなペチャパイなんですけど…
まとめ
シーズン2は落ちるところまで落ちてどんどん西村とおるが嫌いになっていって、だけど最後のシーンの
「死にたくなったら下を見ろ、俺がいる。」
このセリフと共にボブデュランの名曲が流れエンディングに。
あぁ、これはNetflix版のしくじり先生なんだなと。
きっとこのセリフに救われる人って結構いるんじゃないかなとフルコーラスの「Like a Rolling Stone」を聴きながら思いました。
スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」が好きな人なんかはきっとこの作品好きなんじゃないかな。
勘違いしてほしくないのは決してエロがテーマではない。
エロに情熱を注ぐ人間模様がテーマなのだ。
成功と破滅。愛と孤独。理想と現実。
そのすべてを背負って立つ男の物語。
山田孝之の芝居は、まさに魂の演技。
一つ一つの台詞に、彼自身の生き様が滲んでいる。
色眼鏡で避けてる人は騙されたと思って観てみてほしい。ネタバレしたけど。
さて、またシーズン1から観直しますか。


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