2014年に公開された映画『紙の月』。普通の女性が堕ちていく様を描いたクライム映画。
公開当時なかなか話題になったらしいんだけど自分の中で完全にスルーしていた作品。
意識的じゃなくて完全にすっぽり抜けていてNetflixで発見し視聴。
本稿はネタバレ全開で考察・感想述べていきます。
基本情報
- 作品名:紙の月(英題:Pale Moon)
- 公開:2014年11月15日(日本)
- 監督:吉田大八(『桐島、部活やめるってよ』)
- 原作:角田光代『紙の月』(第25回柴田錬三郎賞)
- 脚本:早船歌江子
- 上映時間:126分
- 配給:松竹
主要キャスト(役名つき)
- 宮沢りえ:梅澤梨花(わかば銀行の契約社員/主人公)
- 池松壮亮:平林光太(大学生。梨花の“相手”)
- 大島優子:相川恵子(銀行の窓口係)
- 小林聡美:隅より子(厳格なベテラン事務員)
- 田辺誠一:梅澤の夫
- 近藤芳正:井上(上司)
- 石橋蓮司:平林(富裕な顧客・独居老人)
あらすじ

舞台は1994年。穏やかな結婚生活を送りつつ、銀行の契約社員として外回りをする梅澤梨花は、ふとしたきっかけで年下の大学生光太と関係を持つ。最初の“1万円”から、彼に貢ぐための横領は雪だるま式に膨らみ、偽造や着服の手口もエスカレート。やがて銀行内で不審点に気づく同僚、変質していく光太、夫婦関係の空虚……梨花は「欲望」と「自由」の名のもとに破滅へと転がり始める。
小さな堤防が決壊するまで
『紙の月』ってタイトルは当然メタファーです。
紙で作った月は本物の光を持たない。つまり、梨花が求めた煌めきは照り返しであり、朝になれば剥がれてしまう。
だが、その偽物の光に一晩救われることもまた、人間の真実なのでしょう。
さて、
この映画の怖さは、犯罪の大胆さではなく、最初の1万円の軽さにある。
「あとで戻せばいい」「誰も困らない」。梨花は顧客から預かっていたお金のうち1万円を使って化粧品を購入していたが、すぐに近くのATMで引き出して戻していたために銀行にはばれずに済んだ。
そして宮沢りえの顔。罪の昂揚と孤独の凍えが同居する、あの微かな笑み。
盗む理由は愛に見えて、実際は承認の渇きであり、自分への贈与でもある。だから、恋人の気まぐれや卑小さに直面しても、簡単には止まれない。
本作は「転落劇」ではなく、“解放と墜落が同じ道にある”という実感を描いた映画だ。
宮沢りえの魅力
宮沢りえと言うと「北の国から」のイメージが強くてあの頃から比べるとだいぶ痩せたなという印象。
「北の国から ’95秘密」の宮沢りえはめちゃハマり役でふわふわしてるけど過去に騙されてAVに出演したことがあってという設定で、実はちゃんと純のことを思ってたりして個人的には純の彼女のなかで一番好きなタイプだった。
って話それましたが、今でも魅力的な女優さんです。ほうれい線は仕方がないけど相変わらず綺麗です。
綺麗なんだけど幸なさそうな雰囲気が凄くリアル。
ああいう普段は大人しくて夫に一見順応そうなんだけど思い詰めると何しでかすかわからない役を演じさせると上手いな。
失礼だけど不倫とかの役とか似合うんだよなぁ。美貌と幸薄感が独特な存在感を際立たせてるような稀な女優さんだ。
描写が説明不足
全体的にそんなに悪い感じはなかったけど1つだけ気になったのがあのもさい男に惹かれたきっかけがよくわからない。
よくわからないままいきなり抱かれるシーンに突入。
たしかにペアの時計をプレゼントしたのにも関わらず、さらに高級な時計をプレゼントし返しすようなデリカシーのない旦那とは対照的に、自分の事を求めてくれる存在なのはわかるけど、ちょっとあの男に惹かれる描写が弱いので唐突感がある。
どちらかと言うとキモいストーカー寄りの描き方してたような気がするけどなんかもうちょいきっかけとか魅力的に見えるシーンが欲しかった。
結局は梨花が光太を甘やかす形となり、光太を変えたのは梨花自身だった。最終的には梨花は光太に裏切られるわけだけど、自分のことを必要としてくれる存在は、満たされるとだんだん関係性が変わってくるんですよね。
ラストの解釈
映画自体は全体を通してそんなにダレることなく、なかなかいい緊張感でラストを迎えた気がします。
所々スローモーションになって音楽がかかるシーンなんかはミュージック・ビデオ観てる感じ。けど表現としては少し一辺倒でスローモーション何回かリピートされてましたね。
この手の映画だとてっきり最後は捕まって終わるのかと思いきやまさかの海外逃亡。
朝帰りした朝に見た月が偽物と感じ、はじめて自分が「自由」になれたと思う宮沢りえ。
ラストはその逃亡先のタイで青りんごを拾って返そうとしたが、逆に店主に青りんごをもらうシーン。
その青りんごをくれた男の頬には傷があって、梨花が学生時代に実際に支援した子っぽい演出です。
梨花はずーっと人に与え続けてきた女性です。
子供の頃、学校で恵まれない人に寄付をしていたシーンから、光太に対しても横領してまで常に与え続けてきて、それが与えられる立場になるということは新しい梨花になったということ。
実際にその男性が支援した子かどうかは重要ではなく、彼女が新しく生まれ変わろうとする象徴的なシーンです。
だけど梨花は近くにいた警察官の姿を見て姿を消します。
変わろうとしたいけど、これからずっと逃亡生活を続けていくことになるというなんとも救いようのないエンディングだと感じました。
結局海外へ逃亡したところで警官から逃げ回る人生って果たして「自由」なんでしょうかね?
原作では捕まるみたいだけど映画のあのサラッとした終わり方は嫌いじゃないです。
しかし余談だけど、銀行に勤めている人って目の前に現金があるとふと取ってやろうとかよぎるのかな?
映画にもあったようにボケてしまった老人の個人客とかやろうと思えばいくるでもできそうな気がするけど、なんだか自分の自制心を試される職業みたいで疲れそうな気がしなくもない。
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