『ラジオの時間』の焼き直し?『カメラを止めるな!』に感じた既視感とは

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コメディ

300万円の制作費で30億円超の興行収入。まさに「令和のシンデレラストーリー」として映画ファンに語られる『カメラを止めるな!』。

低予算でここまでのヒットを生んだという話題性だけでなく、「斬新な構成」「天才的な発想」などと、国内外から絶賛の声が相次いだ。

しかし、正直なところ私は観終わったあとにこう思った。

「あれ?これって『ラジオの時間』じゃない?」

もちろん本作の良さを全否定するつもりはない。だが、あまりに手放しの絶賛が目立つゆえに、一歩引いた視点からその評価を考えたくなった。

以下、少し辛口かもしれないが、一映画ファンとしての素直な感想を記しておきたい。

基本情報

タイトル:カメラを止めるな!

監督・脚本:上田慎一郎(うえだ しんいちろう)

公開年:2018年

製作費:約300万円(自主映画としては超低予算)

興行収入:30億円超(日本・海外合わせて)

あらすじ

とある山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影しているクルーたち。熱血監督は本物志向で、撮影はなかなか終わらない。そんな中、本物のゾンビが現れて、撮影現場は大混乱に陥る――。

だがこれは、**本当の物語の“前半”**に過ぎない。

後半で明かされる裏側によって、前半の出来事がまったく違った意味を持ち始める。笑えて泣ける、映画制作の舞台裏を描いたヒューマン・コメディでもある。


前半ゾンビ、後半メイキング──“二段構え”の構成

『カメラを止めるな!』は大きく前半と後半に分かれる構成。前半はゾンビ映画そのもの。ノンストップの37分ワンカットで描かれるスリリングな展開は確かに見ごたえがある。だが、それが“仕込み”であり、後半でその舞台裏=メイキングがコメディタッチで描かれるという構造になっている。

つまり「ゾンビ映画を撮る人々の物語」という二重構造。

この舞台裏の展開、映画好きには既視感があるはず。三谷幸喜の映画デビュー作『ラジオの時間』と通ずる部分があるからだ。


『ラジオの時間』との決定的な共通点

『ラジオの時間』は、生放送のラジオドラマの裏側を描いた傑作コメディ。台本が本番中に次々と改変され、それに振り回される出演者やスタッフの奮闘を描いている。

つまり、“本番”と“裏側”を並行させる手法が本作とそっくりなのだ。

もちろん、パクリとは言わない。『カメラを止めるな!』はゾンビというジャンル、長回し、ワンカット、低予算など独自性もある。でも構成の骨組みは、どう見ても『ラジオの時間』のそれに近い。

この既視感があったため、私は「斬新だ」との評価に強く頷くことができなかった。


「伏線が浅すぎた」問題

前半のゾンビドラマでは、カメラのレンズに血しぶきが飛び、スタッフがそれを拭くという妙に“現実的な”シーンが登場する。

ここで「あ、これは“撮ってる”って設定なんだな」と気づいてしまった。

つまり「これは劇中劇なのかも」と観客に悟らせてしまう導線が早すぎるのだ。もし、最後のどんでん返しとして明かされていたらもっと驚きがあっただろう。残念ながら、その驚きは消えてしまった。


キャラクターのギャップは面白かったが…

ゾンビドラマ内のキャラと、実際の裏方での素のキャラクターとのギャップは、確かにユニークだった。アイドル役が裏ではチャラかったり、彼氏役が実際は面倒なヤツだったり。こうした二重構造によるキャラ遊びは面白かった。

ただ、それが物語の中盤以降にうまく活かされなかったのが惜しい。後半は監督の妻だけが印象的にキャラを爆発させていたが、他の人物はあっさりと終わってしまい、掘り下げ不足だった印象を受けた。


宣伝と期待値のズレ

この映画には「絶対に騙される」というキャッチコピーが付いていた。

それが逆にハードルを上げてしまったのではないか、とも感じている。構成や伏線がもっと巧妙であれば、二重の驚きが楽しめたはずだが、「ああ、そういう構造ね」と早々に見抜けてしまったのが惜しい。

改めて思うのは、映画はフラットな状態で観るのが一番だということ。

話題性や期待値が先行しすぎると、評価にもブレが生じてしまう。


まとめ:次回作に期待したい

結局のところ、『カメラを止めるな!』は“過大評価”なのか?私の答えは「一部はそうだが、それでも愛すべき作品ではある」という中庸なものになる。

制作費と完成度を考えれば、十分に凄い。だが「天才的な発想」かと言われると、少し疑問が残る。むしろ、この作品の成功を支えたのは、脚本よりも“情熱”と“熱量”だったのではないか。

そしてそれは、確かにスクリーンからしっかりと伝わってきた。

この監督の次回作こそ、真にオリジナルな一手で勝負してくれることを期待したい。


追記:
『ラジオの時間』をまだ観ていない方には、ぜひ一度観てほしい。これが“裏方コメディ”の金字塔であることを実感できるはずだ。

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